00部屋その六

□More, more, more and more
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「どうした? ルーア」
 自室の中央にぺたりと座り込んで何やら箱を探っているルーアの姿を見つけ、ラッドはひょいと覗き込んだ。すると、ルーアは首を動かして振り向き、生気のない顔にうっすらと笑顔を浮かべて答える。
「部屋の整理をしていたの」
「そりゃまた何でだよ」
「少し、物が増え過ぎた気がして」
 言われても、ラッドにはよく分からない。確かにルーアの持ち物はラッドより多いが、しかし世間一般の女性と比べれば大分少ない方のようにも思える。それはおそらく、ルーアの物――ひいては自分の生への執着のなさに由来するものなのだろう。それを知っている分、ラッドには尚更疑問だった。そこまで増える物がルーアにあるのかということが。
「でも、どれも大事だから、なかなか捨てられなくて」
「大事? その栞も大事なのか?」
 言いながらラッドが指差したのは、今しがたルーアの膝の上に置かれたばかりの小さな栞だ。紙切れに押し花をしただけの見るからに手作りのそれは、ラッドの目には価値あるものに見えない。
 けれど、ルーアはそれを愛しそうに掌で包むと、「ええ」と僅かに頬を染めて頷いた。
「これは、ラッドが初めてくれた花束の花だから」
「……マジかよ」
「嬉しくて花瓶に活けていたんだけど、すぐに枯れてしまって。一本だけ残っていた花を急いで押し花にした、それがこれなの」
「いちいち取っておくなよ、恥ずかしい」
 悪態をつきながらも、ラッドは顔を抑えて壁にもたれかかっている。そうでもしないと、顔面の筋肉の弛緩が収まりそうにないのだ。
「でも、私にとっては、ラッドがくれた物は全部大事。ラッドがくれた物にだけは、私、執着できるわ」
 それを知ってか知らずか、愛しげに栞の表面を撫でたルーアは、優しい手つきでそれを箱の中にしまい込む。その動作を見ていたラッドは、ああ、と気付いた。その箱の中身は全て、ラッドがルーアに贈った品――ルーアにとっての宝物なのだと。
 そして、今度は顔を隠すことなく、ルーアの隣に並んで言った。
「なら、もっと箱買っとけよ。お前の宝物はまだまだ際限なく増えるだろうからな」
「……ラッド」
「当たり前だろ? お前が死ぬまで、それはずっと増え続けるんだから」
「……そうね。そうするわ」
 しゃがんだラッドの肩にもたれるように、ルーアは身をそっと倒す。そして、閉じた箱の表面を撫でた。
「私、どんどん捨てられない女になってしまうわね」






この後一つ目に増える宝物は結婚指輪だという裏設定があったりなかったり。

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