00部屋その六
□あなたのために強くなる
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「竜ヶ峰」
ぼろぼろの姿で待ち合わせ場所に現れた僕を見て、静香さんの口から煙草が落ちた。
「お前どうしたんだよ、その怪我……!」
「何でもないですよ」
ばたばたと駆け寄ってくる彼女に苦笑気味に手を振ってみせると、その手をガシリと掴まれる。まずいなあと見上げれば、青ガラスの向こうの目が剣呑な光を宿していた。
「誰にやられた」
「気にしないでください、静香さん」
「気にせずにいられるわけねぇだろ! 教えろ。あたしが殴りに行く」
歯を食いしばって怒りを堪える静香さんは、僕の静止なんて聞かずに今にも殴り込みに行きそうだ。僕は息を吸い込んだ。
「静香さん」
努めて静かな声で言えば、彼女の目が僕を見る。
「止めるなよ、竜ヶ峰」
「僕は大丈夫です」
「大丈夫なわけねぇだろ」
「大丈夫です。だから静香さんは手を出さないでください」
強い目を見据えて、一言一言、区切るように言う。すると、静香さんがやっと僕の手首から手を離した。
「僕だって男です。だから、」
「いつまでも静香さんに守られているわけにはいかないんです」
これは僕のちっぽけなプライドの話。
僕なんかのために、静香さんの拳を振るわせるわけにはいかない。だって、静香さんは暴力なんて望んじゃいないんだ。恋人に望まないことをさせるなんて、そんなことは僕のプライドが許さない。
「だからお願いします、静香さん。手を出さないでください」
馬鹿なこと言うなと怒鳴られること覚悟で、目を閉じて頭を下げる。彼女は怒るだろうか。弱いくせに、と。
けれど、怒りに満ちた罵声の言葉は、何時まで経っても聞こえてこなかった。
「……静香さん?」
不思議に思い、恐る恐る顔を上げる。目が合った静香さんは瞬間的に目を逸らし、ぼそぼそと呟くように言った。
「……お前さ」
「はい」
「馬鹿だろ」
「……はい」
「弱いくせに」
「……そう、ですね」
テンションだけ違う予想通りの言葉が、ぐさぐさと胸に刺さる。でも、と僕は唇を噛んだ。
「決めたんです」
いくら年が離れていても、いくら力の差があっても、僕は貴方の恋人なんだ。
「静香さんのことを守れるような人間になるって」
これは僕の誓い。そしてプロポーズ。
あなたのためなら、僕は血を吐いてでも強くなってみせる。
衝動的に帝静♀。ヘタレと姐御な関係に見えて、偶に静香をドキッとさせる帝人が見たい。