00部屋その六

□これが僕らの日常
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 昼休み。
 教室の中では、昼食のために席を移動する生徒たちが、ざわざわと会話している。
 そんな中、一人だけ、何処か浮いたような少年がいた。
 髪の色は真っ赤。しかし、彼の髪の色はよく変化するので、今は偶然赤いだけである。着崩された制服に、首元に覗くシルバーアクセ。両耳には数えきれないほどのピアスを付けて、指にもゴツイスカルのリング。つまらなそうに携帯を見て、口の中ではガムを噛んでいる。顔立ちは整っており、服装とも相まって芸能人のようなのだが、その目つきと表情には、何処か話しかけづらい雰囲気があった。
 井浦 玲。それが彼の名前である。
 携帯から顔を上げた彼は、舌打ちしながら呟いた。


「あー、遅ぇっつーの」


 すると、それに応える声。


「ただいま、玲」


 聞き慣れたその声に、玲はくるりと振り返る。そして、そこに立っていた少年の姿を認めて、不機嫌そうに唇を歪めた。


「おせーよ」
「俺ももっと早く戻って来たかったよ。英語の長文の……なんて先生だっけ? に捕まったんだ」
「授業に出ろと」
「その反対。体調はもう良いのかってさ」
「げっ、この偽優等生。教師の名前もろくに覚えてねぇくせに」
「全員覚えてる生徒なんて、余程の物好きだろうけどね」


 肩を竦めてそう言った彼の名を、成田 五葉という。
 男性にしては少し長めの黒髪、パッチリした目に長い睫毛、色の白い肌という容姿のせいか、見た目には女子生徒のように見える。体格も小柄、筋肉などほとんどついていなさそうな容姿で、そこだけ言えば線の細い美少年といった感じだが――玲と同じくらい、目つきが悪かった。玲の目が拒絶を表していたのと比べると、彼のそれは見下すような色だ。
 玲と五葉。目つきの悪さと近付き難さを除いては、外見も内面もほとんど似通ったところのない二人である。
 しかし、二人は不思議に仲が良かった。


「やたら馴れ馴れしいし、あの先生嫌いなんだよ。授業は上手なのに、生理的に受け付けない」
「あー、ごよーアレのお気に入りだったよな。……気を付けろよ」
「何だよその意味深な間」


 一度自分の席に戻った五葉は、机の横にかけてあったバッグから弁当箱を取り出して、またこちらへと戻ってくる。そして、玲の席の前の椅子を引っ張ると、玲の机の上に弁当箱を置いた。


「借りるよ」
「どーぞ」


 机の横にあったコンビニの袋から、玲も昼食のおにぎりを取り出す。
 弁当箱のふたを開けた五葉が、小さく首を傾げた。


「紫音と正斗は?」
「二人は購買だってさ。混んでんじゃね?」
「あー……成程」


 玲の唇がリプトンに差してあったストローを加える。
 しばしの沈黙が二人の間に舞い降りたところで、ドアの方から元気な声が聞こえてきた。


「あ、ごぉーだ! おかえりー!!」
「体調は大丈夫か?」


 そちらに視線を向けた五葉は、「ああ、もう大丈夫」と片手を振って見せる。そして、ドアのところに立っていた二人のうちの片方に、「あのさ、」と手を合わせて言った。


「さっきの授業のノート見せてくれ。頼む」
「ああ、構わない」
「本当に御免な。ありがとう」


 二人の少年は、まっすぐに玲と五葉の方へ歩いて来る。そして、やはり近くにあった席を引っ張ってくると、その二人で向かい合うように腰かけた。
 五葉にノートを頼まれていた、少年――というよりは青年に近い彼は、音無 紫音。そして、元気に大声を上げた方の少年は、片岡 正斗。二人とも、玲や五葉とつるんでいる男子生徒である。
 紫音は金髪。肩耳にピアスを付けているのだが、落ち着いた雰囲気としっかりとしていて硬派な口調のせいか、軽い印象は一切受けない。背は高く、体格もややがっしり気味。優しく、温厚な人柄で、玲や五葉とは違い、こちらは誰もが心を許してしまうような雰囲気を持っている。クラスでも頼られる存在だ。
 そして、正斗は対照的に極端に背が低い。同じように金髪だが、頭の上でピョンと跳ねたアホ毛前髪を止めるヘアピンが印象的である。可愛らしい顔立ちとちょこまかとした動き、そして明るい表情や言動は、男女問わず好かれる最大の理由だ。重度の甘党である彼は、甘いパンばかり4個ほどを、机の上に並べていた。その小柄な体に入るとは、とても思えない。
 四人揃ったところで、ますますちぐはぐな四人。しかしそれでいて、絶妙のバランスで成り立っているようにも見える。
 クリームデニッシュにかぶりついていた正斗が、口の周りのクリームとパンくずを気にすることなく口を開いた。


「そーいえば、今日の朝、しぃーの机の中に何か入ってなかった?」
「……何か?」
「オイ、正斗っ」


 もぐもぐと口を動かす友人に、慌てたような表情を見せる紫音。すると、玲と五葉が、二ヤリと笑みを顔に浮かべた。


「なんだよー、ラブレター?」
「この前もなかったっけ?」
「まったく、お前らは……」


 楽しむような表情を見せる二人と、ため息をつく紫音。原因である正斗だけは、特に気にしてはいない様子で、もっちゃらもっちゃらとパンを咀嚼し続けている。この短時間ですでに一つ食べ終わったのか、手にしているのはキャラメルクリスピーになっていた。
 手製の弁当をつつきながら、視線を逸らす紫音。


「……ついてくるなよ」
「行かないよ。そこまで他人のプライバシーに踏み込むつもりはないからね。……だよね、玲」
「まーな。でもさ、返事とか、決めてんのか? 困ってたりすんじゃねぇの?」
「ああ……まあ」
「しぃーは優しいからねー」
「好きでもないのに付き合ったりしたら駄目だよ、余計傷付けるから。まあ、紫音なら分かってると思うけどさ」
「そうだな」


 何処か思案顔の紫音は、考えるように弁当に視線を落とす。
 それを見て、玲が「にしても」と話題を変えた。


「いっつも自分で弁当作ってるって、すげぇよな」
「……え?」


 いきなりそう言われ、紫音の目が点になる。しかし、横で五葉も頷いた。


「俺も思うな。絶対面倒だから無理だ」
「ていうかさー、ごよーってば長文のエロに気に入られてんだぜー」
「嫌な言い方するなっ! っつーかエロって……」
「エロいからエロ。雰囲気とか言動とか、絶対女子生徒狙いだぜ。教育実習生に手ぇ出したとかないとか……」
「でもあの先生、飴くれるから好きだよー?」
「……正斗、ついて行ったりするなよ」
「うん。だってしぃーの作るお菓子の方がおいしいもん」


 大真面目な正斗の言葉に、玲がカラカラと笑う。五葉がほんのりと笑顔を見せる。
 釣られるように、紫音も笑った。









 そう、これが、ちぐはぐでいてピースの揃った彼らの日常風景。




















●あとがき的な
 最初は莉央と課題にしていたボーイズにラブっちゃってる方を書こうかと思っていたのですが、久々すぎて整理がてら書いてみました。
 このサイトでは、大分はじめましてのはずです。
 オリジナルでやってます、「青林檎たちの日常」。この四人は、その中心人物たちです。
 普通の高校生男子たちの日常を描いた緩い……?短編集。一応notBLです。悪乗りで二次創作するかもですが。
 本当は脇役の陸上部(笑)も出したかったのに、奴の出る隙はありませんでした。
 またちょこちょこ更新して行くと思いますので、よろしくお願いします。

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