00部屋その六
□伝わらない思い
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「それにしても、たくさん買ったな」
「あぁ」
向かい合って言葉を交わす、俺とグラハム。
二人で買い物に来て、休憩に、と入ったのが、今いるカフェだった。
珍しく、グラハムはケーキを食べている。ストローベリータルト。甘い匂いが、こちらまで漂ってくる。
スィーツを食べている二十代後半の男、と表現すれば、妙な光景かもしれない。
しかし、グラハムの場合は、スーツさえなければ学生でも通じるような外見だ。切り分けたタルトを美味しそうに口へ運んでいても、なんら違和感はない。
どころか、可愛いとさえ俺は思う。
余りに現実離れした、その身長と年齢に似合わない無邪気さに、ため息が漏れた。
「ん、どうした?」
俺の視線に気が付いたのか、ちらり、とグラハムがこちらを見た。
「君は食べないのか?」
俺の手元には、ほとんど手を付けられていないサンドウィッチ。
微笑んで答える。
「アンタを見てたんだよ」
「……私を?」
「タルトを食べてるアンタは可愛い」
からかっているわけじゃなく、本気の視線でグラハムを見る。すると、む、とグラハムは手を止めて、唇を突き出しながら答えた、
「馬鹿にしているのか?」
「本気だぜ」
「……褒め言葉だと受け取っておこう」
「褒めてるんだって」
俺の言葉をどう取るべきか悩んでいるようだ。戸惑う様子も見ていて楽しく感じるのは、性格が悪いだろうか。彼の生き生きとした表情は、見ている俺を幸せにさせるのだ。
流すことを選択したのか、グラハムはケーキとの格闘を再開する。
それを見つめる俺。
静かなBGMが流れる、心地良い静寂。
グラハムの目も、まるでお菓子のようだ。キラキラと輝くそれは、子供心に憧れたドロップのように美しい。
美味しいだろうか。とても甘そうだ。
「アンタの目って、綺麗だよな」
キスしたくなる。
そんな思いを言外に含ませて言うと、「そうか?」とグラハムは首を傾げた。長い睫毛がパサリと揺れる。
「君の目も十分に美しいと思うが」
「そう言ってもらえると、悪い気はしねぇな」
「君のその目は、美しい海、そして木々の色だ。自然のようだと私は感じるよ。見ていて心が穏やかになる。君の優しさが表れているのではないか?」
褒め殺しだ。
だけど、グラハムには他意も何もないということは、俺が一番分かっている。
それでも、少し期待をしてしまうのは、しようがないだろう。
「目だけじゃなく、アンタのことが全部、俺は好きだぜ」
手を伸ばして、白い頬に優しく触れる。その綺麗な目を、真剣に見つめた。
「その性格もな」
グラハムの手が、俺の手に重なる。
「私も、君のことが好きだよ」
言って、ストローベリーに相応しい明るい表情で、彼はにっこりとほほ笑んだ。
「君に勝る友人はいない」
友人。
ハッキリと言いきられた言葉が、笑顔とのダブルパンチで俺を襲う。グサリ。見えない血が流れ落ちて行く気がした。
あぁ、そうさ。分かってるよ。
何とか微笑んで、俺は答えた。
「そりゃ何よりだ」
友人。そう、俺たちはまだ、友人同士でしかない。
だけど、グラハムの中で俺が占める割合が大きいのも、また確かなことだ。
いつか、近いうちに。
この、僅かだが大きな一歩を、確実に踏み出してやる。
後書き。
個人的には非常に楽しい話でした。
原作沿いでほのぼのとした二人なんて、一体何時ぶりなんだろう……書いていて何処となく寂しくなりました。半年ぐらいは書いていないのではないかと思います。
いつもいつもアルコールな二人なので、たまにはスィーツでも。と思ったところ、一年ほど前にケーキが絡んだ話を書いておりました。
……どれだけ発想力が貧相なんだ、私……!
愕然としましたが、ストローベリータルトとグラハムというツーショットだけは譲れません。
もうアピールがさりげないとか言うレベルじゃなく、グラハムが超鈍感なだけになりましたが、それだけは譲りませんでした←
滅茶苦茶な話を書いて本当にすみません。
リクエストを下さった雫様のみ、お持ち帰り可です。