00部屋その六

□瞳を閉じて。
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 美しい男は、彼に言った。
「……城をやろうか」
「アンタがか?」
「国と民をやってもいい。――君がやる気があるのなら」
「どこの国だ?」
「言っても君には分からない。もしも君がそれを望むなら、君は全部に別れを告げなければならない」
 彼は苦笑した。
「…別れを告げなくちゃならないほどのものが、俺に残っていれば教えてもらいたいな」
「二度と故郷にも戻れない」
「……へぇ」
「それでも良ければ、君に一国をやろう。――玉座をほしいか」
 男が見据える視線に、彼は静かに声を返した。
「……ほしい」
 男は頷き、舳を離れて彼の足元に向かう。そこで膝をつき、深く頭を垂れた。










「――天命を持って主上にお迎えする。これより後、詔命に背かず、御前を離れず、忠誠を誓うと誓約申し上げる」












 世界には、十二の国がある。
 一つの国には一つの王。王は神仙であり、官吏も同じように歳をとらない。
 そして、王を選ぶのが神獣である麒麟。一国に一頭しかいない彼らは、選んだ王の宰相となる。
 ここは雁国。
 雁国が延王・ニールは、四阿の中で大きく欠伸をした。

「平和っつーか、暇だよな……」

 呑気なことを呟いているが、今はれっきとした執務時間。つまり彼は、さぼりの最中である。ニールは生粋のさぼり魔であり、王宮に居ること自体が珍しいほどであった。
 一面の緑を見ながら彼がのんびりしていると、その背に声をかけるものがあった。

「主上」

 よく響く、綺麗な声。
 半身である青年の登場に、ニールは微笑みながら振り返る。

「珍しいな、アンタがさぼるなんて」
「君と一緒にしないでほしい。私はやるべきことはやっている」

 麒麟らしい、鮮やかな金の髪。他の麒麟と比べると短すぎる程だが、転変して麒麟の姿になれば普通の長さになるので、本人はさして問題と思っていない。
 グラハム。
 延麒である。

「春官長が探していたが?」
「ティエリアか……。今度は何の用だって?」
「聞いていない。小言を言われたくなかったら、早く行ってやったらどうだ?」
「良いんだよ。俺は気にしねぇから」

 軽い口調で言って、グラハムの肩を引き寄せるニール。グラハムは逆らわず、為すがままにされる。その影の中から獣の唸り声が聞こえたような気がしたが、二人は気付かないふりをした。
 軽いスキンシップのようなものであり、今更どうということでもない。二人はそう認識している。
 グラハムの美しい瞳を見ていたニールは、その目に微笑みかけるように言った。

「目、閉じろよ」

 その言葉に、彼の麒麟は目を閉じる。
 身を乗り出したニールは、彼の目蓋へと優しく接吻を施した。両眼に交互に行ってから、その睫毛にも唇を落とす。
 そして、金の髪を優しく撫でてから、囁くように告げた。

「目を開けても良いぜ」
「……何のつもりだ?」

 そろそろと目を開けたグラハムは、不審そうにニールを見る。その視線を真っ向から受け止めた彼は、静かな声で聞いた。

「アンタが望む国になったか?」

 その言葉に、グラハムはハッと目を見開く。
 もう何百年も前に交わした会話。
 グラハムはニールに言った。豊かな国が、誰も飢えることのない国がほしいと。それが彼の望む国だと。
 そして、彼が良いと言うまで、目を瞑っていると。

「……勿論だ」
「なら良かった。これでやっと、一国が返せた」
「あぁ、」
「何だよ、泣きそうだな」

 子供に対してするように頭を撫でられて、グラハムの目から涙が落ちる。
 そして、この男の麒麟で良かったと、彼は心の底から思った。




















―あとがき―
 難しいですね、思いっきりパラレルというのは。
 原作を分からない人も楽しめるように、原作を知っている人はもっと楽しいように……。
 今回は、大分原作の雁国の要素が強くなってしまいました。分からなかった方、どうもすみませんでした。
 私はとっても楽しかったです。原作を読み返すこともできたので。
 二人のうちのどちらを麒麟にしてどちらを王にするかは、ギリギリまで悩みました。ニールが王でも面白うそうだな……とも思ったので。
 結局このような形になりましたが。
 御門様、リクエスト有難う御座いました。とても楽しかったです。
 御門様のみ、お持ち帰り可です。

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