00その弐

□水玉ピンクのマニキュアで
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 キスの最中のことだった。
「……んー?」
 突然静雄に手首を掴み上げられて、甘楽は首を傾げながら唇を離した。
「何ですか、シズちゃん」
「……これ」
「え?」
 静雄が指差したのは、甘楽の爪。常はトップコートのみと簡素なそれは、今日は水玉模様に可愛く塗られている。
「どうしたんだ?」
 静雄が細部に気付くのは珍しい。そう思いながら、甘楽は自慢げに解説した。
「塗ってみたんです!」
「どうして」
「気分転換ですよ、もう!」
 じゃーんと手を広げて、自らの爪の模様を見せびらかす甘楽。すると、静雄はどこか苛立たしげに指を絡ませた。
「誰の趣味だよ」
「……へ?」
「その柄。テメェの趣味じゃねェだろ」
 甘楽の口が、ぽかーんと開く。だが、次の瞬間にはくすくすと笑って、静雄の言葉に指摘した。
「嫉妬ですか?」
「……うるせぇ」
「甘楽ちゃん愛されちゃってますねー」
「黙れ」
 自分でも恥ずかしいのか、悪態をついて俯く静雄。そんな彼を見ながら、甘楽は優しい声で言った。
「これ、シズちゃんのためですよ」
「え?」
「シズちゃん、こういう柄好きですよね?」
 突然の甘楽のことばに、静雄は驚いて顔を上げる。すると、そこには、真面目な顔でこちらを見る甘楽の姿があった。
「甘楽ちゃんの爪は、私とシズちゃん色にしか染まらないですよ?」
 言われた言葉の意味に気付いて、かあっと顔を赤くする静雄。そんな静雄を愛しげに見つめて、「シズちゃん」と甘楽は口付けた。
「甘楽ちゃんの爪を染め上げた責任、取ってくださいね」
「……意味分かんねぇ」
「シズちゃん」
 繰り返し甘い声で呼ばれて、さすがの静雄も陥落。甘楽を引き寄せて、噛みつくようにキスをした。

(嬉しかったなんて、そんなこと、言えない)
(この色を塗っている時にずっとシズちゃんの顔が浮かんでたなんて、一生の秘密なんですから!)







甘楽ちゃん企画「ベリーベリー/」に提出。
たまには甘い二人。

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