00その弐

□遅すぎた恋
1ページ/1ページ

※モブ→クレ表現あり
※クレ←ラクっぽい





「好きなんです」
 青年が、クレアに言う。ラックは、自分の背筋が凍るのを感じた。
「クレア先輩のことが、僕は……!」
「落ち着けよ」
 まだ舞台衣装のままのクレアが、それを宥める。ラックはそれを、為す術もなく聴いていた。
 クレアのいるサーカスがNYに来たのは、数日前のことだった。ラックはそれを、一人で見に来ていた。クレアに会えるかもしれないという、淡い期待を胸に。
 クレアの知り合いだと話せば、団長は簡単に奥へと通してくれた。そうして、久方ぶりの再会に胸を高鳴らせていた――そんな中での、出来事だった。
「クレア……」
 ぎゅっと手を握り、ラックは俯く。ここにいたくない、と心が告げる。それに従って、彼がその場を去ろうとした時だった。
「ラック!」
 まだ少年と形容してもいいような青年を宥めていたクレアが、突然彼の名を呼んだ。
「そこにいるんだろ、ラック!」
「クレア……」
「出て来いよ」
 言われるがままに中に入ったラックは、自分の隣を青年が走って出て行くのを見た。それから、クレアに視線を移す。
「……お久し振りです」
「ん、久し振り。わざわざ来てくれたのか? 悪いな」
「いいえ、」
 クレアの燃えるような赤毛を見つめながら、ラックは息をつく。
 クレアはこのサーカスの看板役者だ。ファンも多くいるし、サーカス団の仲間にも好かれているようだ。そして、さっきの青年のような者もいる。
「すっかりここがクレアの居場所ですね」
 思わず滑り出ていた言葉にラックが自分の口を抑えると、「何言ってるんだよ」とクレアは笑った。
「確かにここも大事だけど、お前たちと育ったこのNYも大事な居場所だ」
「そう、ですか」
 にこにことしたクレアの笑顔が、ラックにはつらい。自分の胸の痛みを押し殺して、「顔が見れて良かったです」とラックは無理矢理微笑んだ。
「NYには、いつまで?」
「明後日までだな」
「フィーロが会いたがっていましたよ。暇があるなら、会いに行ってあげてください」
「ガンドールにも顔を出したいんだけどな」
「どうぞ、お好きな時に」
 クレアは何も知らない。ラックがどんな思いでここにいるのかも、何も。
 ――でも。
「では」
 それでいい、とラックは胸中で呟いた。
 もっと早くに気付いていれば、伝えられたかもしれない。でも、もう無理だ。無邪気に好意を伝えられる年齢では、ラックはもうない。
「じゃあな」
 クレアが、輝くような笑顔で笑う。
 それに見送られてサーカスを出たラックは、道端で胸を抑えた。
「どうして、好きになってしまったんでしょうね……」








 100000打リクエストで「ラク→クレで幼馴染なラックとサーカス団員クレア、モブ→クレあり」でした!
 ラックは受け派なのですが、矢印なら……と書いてみました。ら、書けました。
 ラックの片想いは美味しいです。
 リクエストくださった方、ありがとうございました!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ