00その弐
□僕はお人形
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俺はアンドロイド。
名前は津軽。
マスターは、折原臨也。
「おはよう、津軽」
朝になって俺の電池を入れたマスターは、目の下に隈のある顔で俺の顔を覗き込んだ。
「また徹夜をしたのか、マスター」
「あはは、まあね」
「無理はするなよ」
「分かってるよ」
マスターは今年で30歳になるが、そうは見えないほどに若々しい。20代前半をモデルに作られた俺と、ほとんど変わらないような年齢に見える。
「マスター」
「何だい」
「ココアを淹れようか」
「頼むよ」
マスターは、俺にマスターと呼ぶよう命じた。俺はそれを受け入れた。何故か、は知らない。
俺にはモデルがいて、そのモデルを似せて俺は造られたらしい。
けれど、マスターは俺をモデルとして育てなかった。モデルの名前は「津軽」じゃない。新羅がそう言っていた。
なら、何故、マスターは俺を造ったのだろうか?
「マスター、俺のこと、好きか?」
「うん、好きだよ」
ココアを受け取ったマスターが、もう片方の手で俺の頭をくしゃりと撫でる。
「なら、俺のモデルは?」
「……大嫌いだよ」
分からない。マスターが分からない。どうしてわざわざ、大嫌いな人間の複製品を作るのだろうか。
「マスター、」
「安心しなよ、津軽。俺は君のことは好きだから」
そう言って俺の頭を撫でるマスターの顔は、愛に溢れている。それは、普段の人類に対する「愛」じゃない。もっと慈愛に満ちた、そう、まるで母親のような愛情だ。
俺はその愛が好きだ。けれど、同時に、何か物足りないとも思ってしまう。
「マスター、好きだ」
俺の髪に絡んだ指ごと抱き寄せて、マスターの旋毛に口付ける。
「好きだ」
俺はマスターが好きだ。
だから、代わりじゃなくていい、ただの一人になりたかった。
静雄は死んじゃったらしい設定。