00その弐
□Sweet jealousy
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※現代パラレル
ニールはいつもライルのことを優先する。それが気に食わない。
「――で、どうしたんだ?」
ある程度なら、分かる。ニールとライルには互い以外の身内がいない。だから、この年頃の普通の兄弟よりもいささか仲が親密であることは、分からなくもない。けれど。
「ああ、なるほど」
けれど、これはどう考えたって許すことの出来る範疇を超えている。
僕とニールとは恋人同士だ。僕は毎週土曜日になるとニールの家に立ち寄る。ニールもそれを分かっていて、僕のために昼食を作って待ってくれている。そして、一緒に昼食を食べながらその一週間にあったことをお互いに伝え合うのだ。その時間はとても楽しいものだし、それ自体に何ら不満はない。
問題はそこからだ。
会話が盛り上がって少し落ち着いたところで、必ずと言ってもいいほどに電話があるのだ――ライルから。
すると、僕たちの会話は休止する。ニールはライルとの電話にかかりっきりになってしまって、僕と口を利かなくなるのだ。勿論、時折申し訳なさそうにこちらを見ることはある。けれど、電話をやめることはしない。
一体どういうことなんだ。僕とニールは恋人同士だというのに。
ライルもライルだ。アニューという恋人がいながら、どうしてこんなにも兄にべったりなんだ。これに関しては心底忌々しいと思う。僕とニールの時間を奪うからではない。これを知ったらアニューがどう思うか、そんなことも考えないのだろうか!
「お前らしいと言えばお前らしいよな、そういうとこ」
じっと見つめる僕の視線にも気付かず、ニールが朗らかな笑い声をあげる。それが、無性に癇に障った。
立ち上がってつかつかと歩み寄り、ぐいっとそのTシャツの裾を引っ張る。
「ニール!」
振り向いた顔を、じっとねめつけてやる。すると、ニールは慌てたように電話の向こうに言った。
「じゃあライル、今日はこの辺で。え? 来客中なんだよ。じゃあな」
ぷちりと切られる携帯電話。エメラルドグリーンのそれをポケットにしまい込んだニールは、「で?」と僕の顔を覗き込む。
「どうした? ティエリア」
あやすような声は嫌いじゃない。わしゃわしゃと頭を撫でる手も。けれど、今日は駄目だった。
ぎゅっとその手首を掴んで、手の動きを強引に停止させる。
「どうして僕が来てるって言わなかったのですか? 言ったら何かまずいことでも?」
自分でもみっともないと思う。けれど止められないのだ。この人に会うまではこんな自分じゃなかったと思っても、もう、駄目だ。
「大体、ライルもライルです。どうしていつもこの時間にニールに電話をかけてくるのか、まったく理解不能だ」
「……ティエリア?」
矢継ぎ早にまくしたてると、ニールがびっくりしたような顔をする。僕は続けた。
「けれど、一番悪いのはニール、貴方です。貴方は弟を甘やかし過ぎだ」
目の前にいるのは僕なのに。
そんな想いを込めて呟く。すると、ニールはキョトンとした顔を破顔させ、それから僕の背に腕を回した。
「悪ぃな、ティエリア。嫉妬したか?」
「別に、そういうわけでは……」
口にしかけた反論は許されない。片手で僕の頬を包んだニールはそっと顔を近付け、「ごめんな」と囁いた。
「俺にはお前だけだよ、ティエリア」
ああ。この人は、本当にずるい。
そんなに幸せそうな顔で笑われたら、怒るに怒れないじゃないか。
「……それなら、僕だけ見ていてください」
彼の視界を独占するように口付ければ、「勿論」と答えるように、甘い、キス。
やっぱり僕はこの人には敵わない。でも、だからといってこの件を許したわけじゃない。
とりあえず、アニューに全部話すこと。それが僕が明日する最優先だと、頬に触れる優しい髪を感じながら僕は思った。
ばかっぷるなニルティエと、ティエリアをからかって楽しんでいるライル。この後アニューに三日間くらい無視されます。