00その弐

□白すぎるその肌には青痣がお似合いだ
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「蘭丸、」
 呼びながら、壁に背をもたれかけさせた彼の胸を、思い切り蹴りつけた。
「かはっ」
 突然の衝撃に、蘭丸の体が揺らぐ。だが、特に抵抗はない。彼の意識は今、夢見酒が作りだした夢境にいるのだ。
 続けて歩み寄り、屈み込んで視線を合わせる。彼の目は宙を彷徨っている。俺は蘭丸の頬を、勢いよく殴りつけた。それから、その長い髪を掴んで、綺麗な形をした頭蓋を、壁に打ち付ける。
「痛いか?」
 問いかけるが、返事はない。俺もそれは分かっている。
 ぐらりと揺れた体が、畳の上に崩れ落ちる。その体を蹴り転がして仰向けにすると、俺は、右足を軽くその胸の上にのせた。
「それとも、夢の中で、心地が良いか」
 胸にのせた右足に、少しずつ、力を込めていく。みしみしと胸が軋む音がする。ぐっと蘭丸の息が詰まった。もう少しいけば肋骨が折れる、というところで、俺は足にかけていた力を抜く。反射的に、げほげほと咳き込む蘭丸。俺はそれを冷たい目で見下ろした。どうせ、殺す気はないのだ。
 髪を掴んで蘭丸の頭を持ち上げ、白い着物の袂に手を滑り込ませる。胸元から脱がしていけば、幾つもの青痣が目に付いた。どれも、俺がこの数時間の間に付けた痣だ。
 蘭丸の上半身を脱がせてしまった俺は、力なく柱にもたれかかる蘭丸を見下ろして、笑う。
 やはり、蘭丸の白い肌には、青痣がよく似合う。今まで誰も考えなかったのが不思議なくらいだ。
「今日から俺が愛してやろう」
 痣を撫で、俺は蘭丸に囁きかける。
 そう、今日からは殿の代わりに俺が蘭丸を愛してやるのだ。
 殿が蘭丸に行ったような生ぬるい愛仕方ではなく、殿が俺に対して行ったように、折檻して、苛めて、そうして愛してやる。
「楽しみだろう、蘭丸?」
 顎を持ち上げて問いかければ、宙を彷徨っていた瞳がちらりとこちらを見た。今の俺の言葉が聞こえていたのかは分からない。けれど、聞こえていたとしてもきっと、彼は異を唱えなかっただろう。
「愛しているぞ、蘭丸」
 手の平の中でかき上げた髪を滑らしながら、夢見酒に染まる真っ赤な唇にかじりつく。歯を立てれば流れてくる血を、酒とともに、俺は飲みほした。


 そう。
 この美しいからだに何より似合うのは、暴力だ。殺し殺されることだ。
 生ぬるい仮初の平穏なんて、あの方に寵愛された人形には似合わない。
 目を覚まさせてやる、蘭丸。
 今日からお前は、青痣と血を纏う、美しい殺人鬼だ。










天が蘭に暴力を振るう話を書きたかったんです!(白状)
いや別に私は暴力に萌えるわけじゃないんですがでも好きなキャラがぼろぼろになっているのは好きですね!
お題はいつもと同じく「夜と魚」様より。

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