00その弐

□レェスの髪紐
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※殿存命中
※捨之助、天魔王の名前が分からないのでそのままです
※ちょっと天蘭風味





 捨之助・蘭丸・天魔王の三人が、揃って安土の城下町を歩いていた時のこと。
 ある店の前を通りかかった蘭丸が、店の前に出してある商品にふっと目を止めた。
「これは……」
 それは、白い糸で編まれた、抽象的で複雑な絵柄の髪紐。現代ではレースと呼ばれるそれを、蘭丸は熱心に見入る。
 すると、店の中にいた番頭が出てきて、「おや、お侍さんお目が高い」と鼻高々に言った。
「それは先日南蛮との貿易で仕入れたものでしてね。女が一つ一つ丁寧に編んで作ってるんだそうです。意中の女性に、一つどうですか?」
「意中の女性に、か」
 蘭丸は苦笑した。
「生憎髪紐を渡す相手などいなくてな」
 すると、隣でふむと顎に手を当てていた天魔王が、髪紐のうち一つを手に取って言う。
「気になっていたようだな、蘭丸。よし、ここはひとつ、俺がこれをお前に買おう」
 突然の天魔王の発言に、蘭丸は「は?」と問い返した。
「男に髪紐を送ってどうする、天魔王」
「だが、お前はこれが欲しいのだろう?」
「別に、欲しいわけでは……」
「お前がどう言おうと、俺がこれをお前に買うと決めたのだ。文句は言わせんぞ」
 髪紐と蘭丸とを見比べて満足げな顔をする天魔王の横で、「じゃあ」と捨之助も髪紐を手に取る。
「俺は、天魔王にこれを買うか」
 今度は天魔王が目を点にした。
「は?」
「いや、だって、お前も物欲しげにしてたからさ。蘭兵衛に天魔王が買ってやるんなら、俺から天魔王にも買ってやるよ」
 二人の間に挟まれた蘭丸は、二人の顔を見比べて、「では」と組んだ手を解く。
「私が捨之助に買うのは、決定事項だな」
「別に買えとは言ってないぜ?」
「自分だけ買ってもらうのは、私の意に反する」
 三人は並んで、それぞれ手にした髪紐を差しだした。
「これを、別払いで」
「はいはい、毎度あり」
 レェスの髪紐は、一つ一つは結構な値段がする。だが、今をときめく織田信長の部下である三人には、そう高いものではない。
 買った髪紐をそれぞれ交換すると、捨之助が早速髪紐として使用する。
「力入れたら破れそうだから、あらかじめ縛っておいてから被せるのが一番だな」
「なんだ、役に立たないものだな」
「最初に目を点けたのはお前だろう、蘭丸」
「それはそうだが……」
「ま、別にいいだろ。今度三人揃ってこれつけて、殿に見せようぜ。殿、何て言うかねぇ」
 殿の反応を想像して、三人はそれぞれ笑みを漏らす。
 そして、殿のいる城に向かって、歩いて行く足を速めた。










仲良し時代! 捨之助が天魔王と蘭兵衛を、天魔王が蘭兵衛を構ってたら可愛い。

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