00その弐
□これが武蔵の日常です。
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「ノリキ」
声をかけられて、ノリキは振り返った。
「……ナルゼか。何の用だ?」
ナルゼがノリキに声をかけることなど、珍しい。ノリキが眉を少し寄せていると、ナルゼは「実はね」とペンを取り出した。
「次の新刊にノリキを出したいと思ってるんだけど、服装をデッサンさせてもらえる?」
「新刊って……」
「勿論、同人誌の」
目をきらきらさせて身を乗り出してくるナルゼに圧され、ノリキは思わず半歩下がる。
引かれているにも関わらず、ナルゼは言葉を続けた。
「いやあ、最近百合ばかり書いているから、BLも読みたいって意見があったのよね。それで、まだ書いてないのって誰だっけと考えたら、ノリキだったのよ。いいわよね?」
何と返したものか。
慣れない事態に、ノリキは言葉を探す。
すると、「ナルゼ君、やめときなよ、ノリキ君が引いているよ」とナルゼの背後から声をかける者がいた。
「何よ、ネシンバラ」
振り返り、ナルゼは腰に手を当てる。
「あんたも同人誌に出番が欲しいの?」
「そんなわけないじゃないか。……ノリキ君、こういうときは、出演料を請求するんだよ。売上の一割を払うこと、とか。そしたら、同人誌で生計を立てているナルゼ君にとっては厳しい状態になって、諦めるはずだから」
「ちょ、ちょっとネシンバラ、何アドバイスしてるのよ!」
「ノリキ君があまりにも可哀相だったからね。で、ナルゼ君はどうするの? 出演料払う?」
楽しそうにネシンバラに言われて、ナルゼは「チッ」と舌打ちした。
「分かったわよ、今回は手を引くわ。……でも、いつか絶対ノリキが出てる漫画を書くんだから!」
そう、犯行予告ともとれる宣言をすると、ナルゼは不機嫌そうにばさばさと翼を動かしながら去って行った。
それを見送って、ノリキは「すまない、ネシンバラ」とネシンバラを見る。
「助かった」
「別にいいよ、礼なんて。たまたま近くを通りがかっただけだし、それに、僕もシェークスピアの件のときに散々ネタにされたからね。葵君×僕とか何とか……。だから、他人が同じような目に遭うのを、見過ごしたりはしないよ。ノリキ君みたいなまともな人間相手なら更にね」
「シェークスピアとの件は、もう解決したようだな」
「jud.、なんとかね。毎日大量のメールが来るのは困りものだけど」
肩を竦めながら、ネシンバラは口の端を歪めて笑う。だが、満更でもなさそうだ。
「それじゃ、僕はこれで」
じゃあ、と手を振って、ネシンバラは歩き出して行く。ノリキも抱えていた工具セットを抱え直して、アルバイトへと足を急がせた。
それを物陰から見ていた人間が、一人。
「くぅ……! もう終わり!?」
立ち去ったはずのナルゼだった。
メモを構えてさっと画面に書き込みをしている彼女に、たまたま通りがかったナイトが、「あれ」と足を止める。
「ガッちゃん何してるの?」
「しっ、静かに。今ネタが頭に浮かんだから。……ノリキ×ネシンバラも王道っぽいけど、腹黒ネシンバラ×ノリキもいいわね……!」
「ガッちゃん……輝いてるね……」
パートナーの活き活きとした姿に、ナイトは苦笑する。
これが武蔵の日常である。
ノリで書いてみました。初境ホラ。しかし微妙なメンバーだ……。