00その弐

□君のヌードが好きなんだ
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※美大生×ヌードモデル






 チルッチは、グランツ兄弟と幼馴染だった。
 幼馴染と言っても、小学生になってから引っ越して来たグランツ兄弟と、遊んだことはほとんどない。一緒に学校に行き、一緒に学校から帰る。その程度の関係だった。
 だが、ともかく、チルッチとグランツ兄弟とは幼馴染だ。メアドも互いに知っていた。
 だから、ザエルアポロからメールが来たとき、チルッチはそれほど驚かなかった。――その文面を見るまでは。
『僕のヌードモデルにならないかい?』
 そう書いたメールが来たとき、チルッチは、少し、悩んだ。
 その頃チルッチは、ゴスロリやパンク系のファッション雑誌の読者モデルをしていた。だから金に困っているわけではなかった。だが――彼女は考えた。金はあればあるだけいい。
 だから彼女は返事を送った。
『いいわよ。いくら?』





「来たわよ」
 もう何度目かになるバイトの日。
 ザエルアポロの住む部屋のインターホンに向かって言ったチルッチは、返事がないことに気付いて首を傾げた。
 だが、部屋のドアはすぐに開いた。
 現れたザエルアポロは、綺麗好きな彼らしくもなく、よれよれのTシャツとジーンズを履いていた。その顔が赤いのを見て、チルッチは目を細める。
「アンタ風邪?」
「よく分かったね」
「風邪そのものみたいな顔してるわよ」
「熱があるんだ」
 言いながら、ザエルアポロはチルッチを部屋の中に招き入れる。ブーツを脱いで続いたチルッチは、ふらふらと揺れるザエルアポロの背中を見て舌打ちした。
「寝てなさいよ。風邪ひどくなるわよ」
「心配してくれるのかい?」
「あたしが放っておいたせいで悪くなったとか言われたら嫌なだけよ」
「……今日の分はチャラにしてもいいけど、バイト代は出ないよ?」
「別にいいわよ。ほら、寝てなさいったら」
 ザエルアポロをベッドに追い立てて、チルッチはため息を吐く。そして、キッチンの冷蔵庫のドアを開けた。中は空っぽ。かろうじて置いてあった林檎を見つけて、彼女はそれを手に取る。
「……何か食べておいた方がいいわよね」
 次にまな板と包丁を探し出した彼女は、器用に林檎の皮を剥き始めた。チルッチは家を出て独り暮らしをしている。これくらいのことはできる。
 林檎を八等分に切り分けたチルッチは、それを皿の上に盛り付け、寝室のドアを叩いた。
「林檎剥いたわよ。食べる?」
 返事を待たずに、ドアを開ける。ベッドの上で半身を起したザエルアポロは、端正な顔を歪めて言った。
「君が優しいなんて気持ち悪い」
「あっそう。言っとくけどあたしにだって情けはあるの。ほら、これ。何か食べ置いた方が薬も飲みやすいでしょ。薬どこ?」
「……そこの棚の上」
 ザエルアポロに皿を渡し、チルッチは棚の上に手を伸ばす。小柄な彼女がやっとのことで薬を手に取ると、しゃくしゃくと林檎を食べながらザエルアポロが呟いた。
「下着見えてるよ」
「知ってるわよ」
 裸まで見られている男に、今更下着を出し惜しみするチルッチではない。空になった皿を受け取ると、水を入れにキッチンまで引き返した。
「はい」
 水と薬を渡すと、ザエルアポロは大人しくそれを飲む。そして、薬とコップをベッドサイドに置いた。
「バイト代払おうか?」
「好きにしなさいよ」
「じゃあ、払うから僕の頼みを聞いてほしい」
「……何よ、改まって」
 殊勝な態度を示すザエルアポロを、チルッチは不気味に思う。何を入れるのかと彼女が戦々恐々としていると、ぐい、と強い力で腕を引かれた。そのままベッドの上に倒れ込んだチルッチの体に腕を回し、ザエルアポロは耳元で囁く。
「……人が恋しい気分なんだ。僕がいいって言うまで隣で寝ていてくれ」
「……今日のアンタ、気持ち悪いわよ」
「熱で頭がおかしいみたいだ」
 くすくすと笑い、ザエルアポロはチルッチの前髪に触れる。そして、「チルッチ」と彼女の名前を呼んだ。
「この際言うけど、僕が君にヌードモデルを頼んだのは、君のヌードが書きたかったからだよ」
「それってどう答えればいいわけ?」
「君のヌードが好きなんだ」
 呟くように言って、ザエルアポロは目を閉じる。その、そこだけ見れば美しい顔を見ながら、チルッチは、そっとザエルアポロの頬に触れた。
 触れた頬は、しっとりと濡れたような感覚がして、熱かった。







何この話気持ち悪い^q^

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