00部屋その五

□お砂糖とスパイス
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「女の子はね、お砂糖とスパイスでできてるんだってさ」
 突然部屋に尋ねて来ては不意にそんなことを言った京楽に、「あら」と卯ノ花は微笑みを浮かべた。
「面白いですね。それは何の話ですか?」
「外国の民謡。七緒ちゃんが持ってる本に載ってたんだけど、いやあ、そのとおりだなって思ってさ。ついつい覚えちゃったんだ」
「……確かに伊勢副隊長は、スパイスで包まれた砂糖菓子のようですね。少し溶かしてみると、心地良い甘さが見えてくるような」
「巧いこと言うなあ、卯ノ花隊長は」
「そうでしょうか?」
 ことり、と卯ノ花が湯呑みを机に置く音がする。向かいの京楽は茶をすすり、「じゃあ」とにっこり笑って言った。
「卯ノ花隊長は、真逆だなあ。お砂糖で何重にも包まれてるけど、時々ピリッとした部分が見え隠れしてる」
「それはそれは」
「怒らないでよ、お願いだからさ」
「誰も怒ってなどおりませんよ」
 けれど、そのとおりだ、と卯ノ花は思った。
 昔、彼女は砂糖を隠し続けていた。今の伊勢よりも、ずっと。砂糖を見せるのは負けだと、そう頑なに信じていたから。けれど、時は経った。彼女は砂糖の使い方を知った。そして今は、スパイスを隠す衣として活用している。
「女性は皆、何処かしらにその二つを持っているものですもの」
「卯ノ花隊長がそう言ってくれたら、僕も安心するよ。女の子はみーんな、可愛くてちょっぴり辛いからねえ。それがまたいいんだけどなあ」
「誰しも、一面しか持っていなくては味気ないでしょう?」
「僕は女の子のそういうところが好きだなあ。お砂糖と、スパイス」
 勿論、卯ノ花隊長もだよ。
 平等主義者な京楽の言葉に、ふふふ、と卯ノ花は青い目を細めた。
「この年でまだ『女の子』だなんて、京楽隊長こそ、お口が巧いこと」






京楽が手土産を持ってふらっと卯ノ花隊長の部屋に遊びに来る……ってことがよくあったらいいな、という妄想。
京楽が使っている湯呑みは専用の物。

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