00部屋その五

□おかえりなさい
1ページ/1ページ





 なんてことはない任務だった。辺境の村で暴虐を行う自称・義賊を打ちのめし、替天行道は彼らとは違うのだと思い知らせるだけの任務だ。仕事はすぐに終わり、それほど大きな怪我を負うこともなく、劉唐はこの梁山泊に帰って来た。
 自室に戻る前に顔を洗い、水しぶきをいっぱいに上げる。最近は戴宋に会っていなかったから、自慢の眉も剃られることなく済んでいた。もっとも、会ったらまた剃られるのだろうが。純粋な戦いではどちらが強いとも言えないが、スピードだけで言えば断然戴宋の方が上だ。悔しいが、それは劉唐も認めている。
 嫌な顔を思い出し顔を顰めたところで、ついでとばかりにもう一人の顔を思い出した。戴宋と任務を組むことが多い、柔和な外見の青年の姿だ。
「アイツはどうしてっかな」
 黒い髪をなびかせた涼しげな横顔を思い出し、頬を緩ませる。素直じゃない彼の恋人。今日もまた鍛練だろうか。それとも、劉唐とは入れ違いに任務の真っ最中かもしれない。だとしたら残念だ。なるべく早く会いたいのに。
「折角帰ってきたんだもんな……」
 タオル代わりの布を打ち捨て、ふう、と息をつく。すると、背後から声がした。
「アイツ、とは誰のことですか?」
 予期しなかった声に、全身の体温が上がる。血が沸騰するようだ。
 ゆっくりと振り向いた劉唐は、自分に気配を気取らせることなく近付いて来ていた青年の姿に、赤い目をゆっくりと見開いた。
「……林冲」
「もう一度聴きます。誰のことですか?」
 詰問するような口調は、どうやら怒っているようだ。劉唐の頭を一時的にでも征服した誰かのことが気になって仕方がないらしい。可愛い奴だ、と柄にもないことを思いながら、劉唐は殊更に明るく微笑んだ。
「お前のことだよ」
 すると真っ赤に染まる白磁の肌。追い打ちをかけるように劉唐は続ける。
「待っててくれたんだろ? 一番に来るなんて」
「……悪いですか」
「悪いわけねえだろ」
 嬉しいっつーの、と頬を緩ませる。正気に返ってはならない。返ったら赤面してしまいそうだった。
「ただいま、林冲」
 そっと手を取って囁くと、背に腕を回した彼が柔らかい声で答える。
「お帰りなさい、劉唐」







久々の更新が劉林とは何だ^^
ひそかに応援しています。奥手初心カップルっぽい。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ