00部屋その五

□子供じゃない
1ページ/1ページ


※現代、保護者と少年





 俺じゃ駄目なのか、と刹那は彼に問いかける。声には出さない。心の中でだ。
 彼の部屋の一番奥の棚の引き出しの中に何があるのか。刹那はそれを知っている。
 おそらく、ニールはそのことを知らないだろう。知られたくないと思い、刹那もそれを告げたことはなかった。告げられるはずもなかった。
 一番奥の棚、その一番下の引き出し。
 そこには、彼のかつての家族の写真がある。
「……俺じゃ、駄目なのか」
 その一ページを開いて、刹那は膝に顔を埋めた。
 どこにでもあるありふれた家族の光景だ。父親と母親と、双子の少年と、幼い少女。皆満面の笑みを浮かべ、カメラに向かってピースサインをしている。彼らが誰なのか。訊いたことはないが、刹那にだって見当はつく。
 そして、知っている。何年かけたとしても、刹那は彼らに勝てないのだと。
 こんなにも好きなのに。言葉が、心臓を打つ。
 俺はお前だけを見ているのに。
 ニールが自分の姿に、家族に何を見ているのか、気付けないほど子供じゃない。愛されていると無条件に思えるほど、幸せな人間じゃない。
「お前に必要なのは俺じゃない」
 代わりはいくらだっている。それが偶然自分だっただけだ。
 色褪せた写真を撫で、刹那は自嘲気味に笑った。
「お前は俺を見てなんかいない」
 それが耐えがたく、辛かった。





久々なので模索中……。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ