00部屋その五

□悪いのは俺じゃない
1ページ/1ページ


※現代、同棲中






「グラハムさん、朝ですよ」
 グラハムさんの部屋をノックした俺は、返事がないのに苦笑しながらドアを開けた。
「グラハムさーん」
 案の定、俺の恋人であるグラハムさんは部屋の中央のベッドで熟睡している。昨日夜遅くまでゲームをしていたせいだろう。昨日は俺も白熱してついつい夜中まで遊んでしまった。だが、俺はグラハムさんのために今日も必死で早起きしたのだ。俺が早起きしたんだからグラハムさんもするべきだ、とはさすがに言えないが、その理屈を適用すれば、起こしても文句は言われないだろう。
 部屋の中に踏み込んだ俺は、眼前で無防備に寝ているグラハムさんを見下ろす。
「しっかし、よく寝てるなあ……」
 さすがのグラハムさんも、寝るときはスウェットを着ている。ただし、今は真夏で暑いから、上はタンクトップ一枚だ。ズボンを膝までまくり上げているのと同様に、タンクトップもめくれて腹が出ている。寝てる間に熱くてめくったのだろう。かけていたはずのタオルケットも飛ばされている。どんだけ寝相が悪いんだ、この人は。
「本能に忠実と言うか」
 ため息をついた俺は、グラハムさんの肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「ほら、朝ですよ、グラハムさん。起きてください」
 返事なし。
 ゆさゆさと肩を揺すってみるが効果は表れない。この暑さで起きない人なんだし、当然か。
「飯が冷めますよ」
 もう一度揺らすが、今度はその手を払われる。どころか覗き込んだ顔に裏拳をくらった。起きてるんじゃないかこの人と思わないこともないが、やはり寝ている。
「グラハムさん」
 反省してちょっと離れたところから呼びかけた俺は、ふとあることに気付いて起こすのをやめた。
 グラハムさん、なんかめちゃくちゃ色っぽくないか?
 普通に考えれば、男相手にこんなことを思っている時点で頭が痛い話だ。だけど俺は思わない。この人の恋人だし、そんな葛藤とは当の昔に別れを告げた。
 今心を占めているのは、別の葛藤だ。
 グラハムさんは、先程も記述したように腹を出して寝ていた。グラハムさんはわりと日に焼けやすい方だが、腹は焼けていないから生白い。そう、生白い。これがいけない。しかも若干スウェットがずれて腰骨が見えている。グラハムさんは痩せているから骨がよく見える。肋骨もしかり、だ。うん。ついついなぞりたくなるのだが、駄目だ、俺。朝からそんなことするべきではない。というここういうのは本人の同意のうえでするべきだ。寝込みを襲うとか、そういうのは絶対にしてはいけない。
 だが、俺の理性とは裏腹に、目は欲望に忠実だ。
 タンクトップは首が開いてるから、形の良い鎖骨が浮き出ている。する、と滑らかに伸びた曲線が美しい。視線を上げていけば、暑さで髪がはりついた首。金糸のようなそれに生唾を飲む。額には汗が浮かび、暑さゆえか少し苦しげに眉を寄せている。それが何とも言えないほどに、俺の心臓を刺激する。暑さで赤く染まった唇が妙に色っぽかった。
「……グラハムさん」
 もう一度呼びながら、そっと近寄る。相変わらずグラハムさんは目を覚まさない。俺の胸中になんて、この人はいつも気付きやしないのだ。
 気付かない方が悪い。
 そんな免罪符が、気付けば心の何処かで生まれていた。それを理由に、俺はそっと身を屈める。吐息が感じられる距離。グラハムさんはまだ目を覚まさない。
「起きてください」
 そっと唇を重ね、乾いた唇を舌で舐めた。
 ん、とグラハムさんが身じろぎする。これ以上は駄目だと分かっているのに、体は止まっちゃくれない。覆い被さるように手をついて、更に口付けを深めようとする。
 が、
「ん!?」
 唐突に、頬を裏拳で殴られた。
 驚きのあまり、思わず自分の舌を噛んでしまう。さすがに痛い。
 痛みに呻いた俺が身を起こすのとグラハムさんが目を覚ますのとは、ほぼ同時だった。
「ん……シャフト……?」
 寝起きの掠れた声で訊かれ、内心ドキッとしながら俺は微笑む。
「おはようございます、グラハムさん」
「お前……何してんだ?」
「何って、起こそうとしてたんですよ」
 なるだけ平静を装って答える。シャムとして何度も何度も繰り返していることだから、これくらい容易いことだ。たとえ、心臓がどんなにドキドキしていても。
「もう朝ですよ」
「ん……そうか」
 うんしょ、とベッドの中で伸びをし、グラハムさんが上体を起こす。俺もすすすと身を引いて、完璧な笑みで言った。
「俺、準備しに戻りますね」
「ああ……」
「二度寝しないでくださいよ」
 早足で部屋を出て、開け放してあったドアを閉める。それに背を預け、ふうと息を吐いた。まだ心臓がドキドキしている。
「……グラハムさんが悪いんですよ」
 いくら同棲しているとは言え、あんなに無防備でいるなんて。
 真っ赤な顔で蹲った俺は、いつか自分の中の劣情に気付かれる日が来るんじゃないかと、そんな日が来たらどうしようかと、今から真剣に考えていた。






100000打リクエスト「現代で同棲してる二人」にチャットで茶葉さんと盛り上がった「グラハムを起こそうとしてムラっとするシャフト」を足してみました。
うちのシャフトはグラハム相手だと素晴らしくヘタレなため、キスまでしか不可能でした。頑張れシャフト←
この二人は同棲はしてますが健全です。恋人同士ですがチューまでの関係です。シャフトが奥手だかry
リクエストしてくださった豆田さんのみお持ち帰り可です。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ