00部屋その五

□綺麗な嘘の作り方
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「私は四木さんのことが好きですよ」
「反吐の出るような御冗談ありがとうございます、折原さん」
「冗談だなんて。私は本気ですよ」
 薄く笑い、情報屋は目を伏せる。長く黒い睫毛の間から覗く紅玉。意識して見せているのだと分かっていてもなお美しいそれを、しかし四木は好まない。
「貴方は嘘がお上手だ」
「嘘ではないと申し上げているではありませんか。私が四木さんに嘘をついたことがありましたか?」
 数えきれないほどあるだろう、と四木は喉の奥で嗤う。この男は、決して情報を偽りはしない。粟楠会の綱ギリギリを渡り歩きはするが、決して関係に亀裂を生じさせるようなことはしないのだ。だが、ことが彼自身のことに及べば違う。折原臨也は平気で自分を偽る。その性格も、内面も、言葉も、全てを。女の化粧のように造られたそれを、四木は美しいと思う。その化粧を無理矢理剥がして中身を露出させたいと思うと同時、そうして着飾って生きる折原臨也に、一種の憐れみを覚えるのだ。
「貴方は嘘ばかり吐く」
「そうでしょうか?」
「ええ、今だってそうでしょう」
「そんなことは。私は四木さんのことが好きです。もしそれが嘘なら、私にどんなメリットがあるというのですか? 本心を偽ってまで貴方に嘘を申し上げる必要が、一体何処に?」
「自分の胸に訊いてみたらどうですか」
 この男はとっくに気付いている。四木が抱く折原臨也への興味に。だが、同時に知らないのだ。四木が抱く愛情が、憐みにも似ているということに。だからこうして自分を偽る。それを、四木が見通しているとも知らずに。
「抱いてください、四木さん」
「情報以外の物を売りたいのなら余所でお好きなように」
「嫌ですね、金なんて取りませんよ。私は四木さんに抱いてほしいだけです」
「まったく貴方って人は本当に反吐が出る、」
 その胸に訊いてみろ。四木という男の姿に一体誰を重ねて見ているのか。四木が口にする罵倒に、煙草の臭いに、手に、一体誰を見ているのか。
「本当に、最低な嘘つきですね」
「そんな私が好きなくせに」
「はは、相変わらず人の話を聴きませんね」
 白い頬に手を添え、うっとりと開いた唇を乱暴に奪う。わざと音を立てて下卑た口付けをしてやれば、赤い瞳はことさら嬉しげに歪んだ。
「私は貴方が嫌いですよ、折原さん」
「四木さんこそ、嘘つきですね」
 離れた唇を追うように、真っ赤な唇が夜を這う。吐息を吹きかけるように、臨也が囁いた。
「私のことが、好きなくせに」
 それを、四木は否定しない。否定しないまま、目の前の薄い唇を喰い破った。







綺麗な嘘の作り方











四木臨企画「25時/」様へ提出させていただきました。臨也のことを憐れんでいるだけの四木さんと四木さんを求める臨也も好きですが、四木さんに静雄の影を追う臨也とそんな臨也が愛しい四木さんも好きです。

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