00部屋その五
□雨の日の夢
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隣に座ったグラハムさんの首が、ガクリと揺れる。車内で光る金色の洪水が、ふわり、と空中を舞う。それに合わせて、俺の心臓も跳ねる。どくん。
「グラハムさん」
彼の名前を呼んでみる。返事はない。俺の心臓が、早鐘のように鳴り響く。耳の中で。聞こえてくるのは少しの寝息だけ。車を運転しているというのに、ちっとも集中できやしない。
(ヤバい、)
角を曲がると、再度グラハムさんの首が揺れた。倒れた先は俺の肩。さらさらとしたブロンドの柔らかさを首筋で感じて、全身が熱くなる。
「グラハムさん」
もう一度、名前を呼ぶ。返事はない。
車を道の端に寄せ、その顔を覗き込んだ。
「あの……」
じめじめとした雨の仲、隣で太陽が輝いている。白い肌に影を作る長い睫毛、薄い唇。まるで少女のようだ。俺の唇が、震える。
いつもの乱暴さが消えてしまった美しい顔。あどけないほどに幼く、可愛らしい。
首を曲げて、その顔をじっと見つめた。起きる気配はない。そのまま、顔を近付けていく。
(この人のことが好きだ、)
鼻が触れる。唇同士が触れ合い、吐息を奪う。
この夢がずっと続けば良いのに、そう思って、目を閉じた。