00部屋その五

□HAPPY MERRY CHRISTMAS !!!
1ページ/1ページ













「リカルドー、ケーキできたよ」
「じゃ、そこに置いといて」
「ちょっと待っていて、二人とも。クリームがあったはずだから」
 キッチンに並ぶ人物が、一人、二人、三人。
 一人はルッソファミリーのボス、リカルド。いつもの服にピンクのエプロンでくるくると動いている様子は、子供らしくてなかなか可愛らしい。
 もう一人は、その友人であるクリストファー。キッチンでケーキを造る吸血鬼はなかなかにシュールな図だが、本人はあまり気にしていない。
 そして最後は、ルーア。手先が器用な彼女は、当然料理も上手である。
「ねぇルーアさん、飾り付けはどうしますか?」
「リカルドちゃんはどうしたい?」
「……ちゃんはやめてください」
「ごめんなさい、可愛いからつい」
「あ、クリームは僕が塗って良い?」
 一風変わった組み合わせだが、ルーアが軟禁下にあるときに一緒にパズルをしたりと、三人の仲はそれなりに良好である。今も三人で、なかなかに息の合った作業をしている。
 そして、ダイニングからそれを見ている人物が、同じく三人。
「兄貴ぃ、俺腹減りました」
「グラハムさん、せっかく作ってもらってるんですから文句は言えないっすよ。ほら、静かに」
「む。俺は別にケーキを造るのが遅いとか言ってるわけじゃない。断じて違う。ルーア姐さんの料理は何度か手伝ったことがあるから、時間がかかることぐらいは知っている。それに、別にキッチンで一緒に作りたかったとか言いたいわけじゃなくてだな、」
「作りたかったんですか」
「俺じゃなくて赤目が作ってんのが悲しいんだよぉ!」
 巨大レンチを相方の腹へと叩きこんだグラハムは、あーとかうーとか言いながら意地汚くコーヒーをすする。
 黙ってその様子を見ていがラッドは、葉巻に火をつけながら、面白そうに言った。
「なんだぁ?グラハムちゃん。俺と一緒はヤだってのか?」
「いえいえいえいえんなわけないじゃないっすか!」
「ラッド、グラハム、シャフト君、もう少し待っていてね」
「はい」
「はーい」
「オウ」
 ダイニングに居座るのは、ルーアの婚約者であるラッド。彼は元々食べる専門なので、暇そうに新聞を読んだりしている。
 そして、その弟分のグラハム。手先が器用な彼は、面倒なので滅多にしないが、多少の料理なら出来る。だからこそ、手伝えないのが気に入らないらしい。
 更に、その相方兼舎弟のシャフト。彼のあ愛は、オマケでありお守りであり、密かに「グラハムさんのエプロン姿見てみたかったなぁ」ぐらいにしか思っていない。
 シャフトも会話不能になり、つまらなくなったグラハムは、小さなレンチでジャグリングを始めた。あまりに危険なその様子に、欠伸をしながらラッドが言う。
「よくんなことできんな」
 その言葉に上機嫌になったグラハムは、ジャグリングを続けながら、お決まりのいつもの台詞を口にし始めた。
「楽しい、楽しい話をしよう! それは、俺がまだガキの頃の話だ。クリスマスの日の朝、俺が目を覚ますと、プレゼントの箱が枕の横に置いてあった。それだけでハイになるだろ? ちなみに俺は、今でもサンタを信じてる。大人になってしまった俺の元には、もうサンタは来ないけどな。こんなことなら、あの時成長を止めておけばよかった……」
「話逸れてるよ」
「うるさい。……そうだ、楽しい話だったな。とにかく、俺は箱を開けた。すると、何が入っていたと思う? 車の模型だったんだ! イェー! 俺のテンションは振り切れ、その場で踊り狂った! そして、何をしたと思う? 勿論バラしにかかった。貰ったところだったレンチを使って、一つ一つ、丁寧にパーツごとで壊したんだ! しかし、そんなことを親が許すはずもなく、俺は親父にぶん殴られた。痛くて、泣きそうになった……あれ、ん? 悲しい話だったのか!?」
「話がおかしいって」
「っるさい!」
 小型レンチを構えたグラハムが、ブンッとそれを振り下ろす。下ろされたクリスは、何処からか取り出したナイフでそれを受け止めた。
「ケーキを食べる前にそれはないんじゃない?」
「俺からお前へのプレゼントだ。ありがたく受け取れ」
「それって暗に、僕へのプレゼントは用意していないってこと? まぁいいや、おかえし」
 レンチを弾き返したクリスは、素早く跳躍して、グラハムへと蹴りを入れようとする。
 だが、二人の戦闘が白熱してきたところで、キッチンからルーアが顔を出した。
「ラッド、できた……」
「オイお前ら、できたぞ」
 その言葉を受けたラッドが、恋人の言葉を二人へと伝える。
「へい!」
「うん」
 二人は嬉しそうな顔で答えると、かしこまって席に着いた。
 リカルドが、重たそうにケーキを持ってくる。
「はい」
「じゃあ、俺がワインとケーキ持ってきますね」
「グラハムさんはジュースですよね」
「んなわけあるか!」
「だってあんなにすぐ酔うじゃないですぐへあっっ!!!」
「あ、ちょっと待ってて。プレゼントを取ってくるわ」
 バタバタバタバタ、席を立ったりまた座ったり。
 やっと揃った彼らは、誰からともなく、声を揃えて言った。







「Merry Christmas !!」









 楽しい、とびっきりのクリスマスを。











 




 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ