00部屋その四

□死が二人を分つまで
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※吸血鬼パラレル






「兄さん」
 夕方。
 ベッドから身を起こしたライルは、けだるげに兄の名を呼んだ。
「兄さん、腹減った」
 すると、自分の分の夕食の支度をしていたニールは、げっと顔を歪めて振り返る。
「起きたのか、ライル」
「ああ。……その顔はねぇだろ」
「……で、なんだって?」
「腹が減った」
 ベッドに腕をついて四つん這いになりながら、ライルはニールの顔を見上げた。ぎらり、と八重歯が光る。
「兄さん」
 すると、ニールはため息をついて、「分かったよ」とコンロの火を止めた。
「その代わり、今日も外出は禁止だぞ」
「分かってるって」
 待っていました、とばかりに目を輝かせたライルは、気乗りしないニールの様子にも構わず、がばりとニールにしがみつく。そして、彼の茶色い髪を払いのけると、見つけた傷口に牙を当てた。
 がぶり。
「いってぇ……」
 声を上げて、ニールがのけぞる。構うことなく、ライルはそのまま牙を深く差し込んだ。
「いただきます」
 律儀に挨拶して血を吸い始める彼に、ニールは投げやり気味に答える。
「どうぞ……」
 そして、はあ、と大きく息をついた。
「お前さあ、俺が死んだらどうするつもりだよ」
「他の食糧を見つけるぜ?」
「やめてくれよ……」
「嘘嘘。そんなことしねぇよ」
 食事が終わったライルは、ごちそうさま、と呟いて顔を上げる。それから、同じ顔をした兄を、じっと見つめた。
「兄さんが死ぬ時には、俺も死ぬ」
「でもお前、死ねないんだろ?」
「死ねるさ。兄さんが、銀の杭で俺の心臓を突いてくれれば」
「……ライル?」
「なあ兄さん、その時が来たら、俺を殺してくれ。兄さんが死ぬよりも早く。俺だけ残されるなんて、耐えられねぇ」
 血の味の残る舌で唇を舐めながら、ライルは話を続ける。
「俺は嫌だ。兄さんのいない世界で生きるだなんて」
「ライル……」
「だから頼むよ、兄さん」
 ちゅっと傷跡に口付けて、ライルはニールの頭を抱える。そのまま落とされた口付けの中で、ニールはそっとライルを抱き締めた。
 安心しろ、一人になんてしないから。そう、心の中で呟いて。









どちらか一人だけ吸血鬼って良いと思います。

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