00部屋その四
□壊しちゃえ
1ページ/1ページ
世界なんて大嫌い。
貴方を否定した世界なんて大嫌い。
私には兄がいました。文武両道眉目秀麗、人望の厚い素敵な兄でした。私は兄が大好きでした。お兄様、お兄様と呼んでは、その人の後ろをついて回っておりました。
兄は優しい方でした。
でも、決して私に触れてはくださいませんでした。
私が十歳を過ぎた頃、父が病気になりました。助かる見込みのない病気でした。
後継ぎを指名する際になって、父は兄ではなく、私を指名しました。
『何故ですのお父様、お兄様がいらっしゃるではございませんか!』
『それはならんのだ、留美。何故なら、紅龍は妾の子だからだ』
それが全ての理由でした。
私は父の正妻の子供。
兄は父の妾の子供。
それだけで、私たちの運命は別々のものとなりました。
それが理由だったのです。それがあったから、兄は私に触れようとしなかったのです。汚れが伝染るという、母の金切り声を避けるために。
ああ、何ということでしょう。
私が愛していた兄は、父が死んだその日に、私の兄ではなくなりました。王家の当主の私に、兄などいてはならないのです。
兄はそれを静かに受け入れました。私の目には、そんな兄が、人形のように見えました。
そして私は憎みました。兄をただの人形にしてしまった父と母を。そんな人間を生かすことを許し、どころか恵まれた境遇にすら置かせる、世界を。
だから私は選びました。世界を変えることを。
こんな世界、大嫌いだから。
「貴方のためよ、紅龍」
私の言葉に、お人形の紅龍は答えません。私は大嫌いです。お人形になってしまった紅龍も。
私は世界を変えましょう。いえ、壊して見せましょう。
変わった世界の向こうには、私の父や母のような者の居場所はありません。人形のような兄の居場所も。
けれど、そこにはあるはずなのです。
私の居場所も、かつて私に微笑んでくれた、優しい兄の居場所も。
BSの再放送の影響で一気書き。