00部屋その四

□憧れの人
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 伸びた背筋。小柄な体。まっすぐな視線。
「すまぬ井上、待ったか?」
 そこらにあったTシャツを引っかけてきただけみたいな服装。すらりと伸びた脚はジーンズに包まれている。ジャケットは借りたものだろうか、少し大きい。
「ううん、大丈夫だよ。突然メールしたのは私だし」
「それは構わんが……どうした?」
「ううん、偶には一緒に買い物したいなって思っただけ」
「良いな。何処に行く?」
「うーん、特に考えてないんだけど、洋服見る?」
「そうするか。あと……私は、その」
「どうしたの?」
「すいーつばいきんぐとやらに行ってみたい」
「良いね! 行こう!」
 照れたような表情でもごもごと希望を口にした朽木さんに、私は大きく頷いてみせる。すると、朽木さんはほっとしたような顔をした。いつもの凛々しい彼女に似合わない、ちょっと気弱な表情。自分の意見を口にすることに慣れていないからなんだと、前に阿散井君が言っていた。黒崎君は知っているんだろうか? 朽木さんがこんな表情をするんだってことを。
「今日は何してたの?」
「特に何も。一護が浅野から借りた漫画を読みながらだらだらしていたところだ。暇だったし、井上の誘いは丁度良かった」
「そっか、なら良かった」
 朽木さんは何から何まで私と違う。強くてまっすぐで、でもちょっぴり弱くて、優しくて、格好良いのに女らしい。それは、私にもたつきちゃんにもない部分だ。きっとそれこそが、朽木さんの魅力なんだろう。
「良いなあ、朽木さんは」
「……どうした?」
「ううん、何でも」
 黒崎君の傍にいるには、きっと朽木さんみたいな人が丁度良い。肩を並べて戦えて、背中を守ってあげられる人が。私は違う。私は弱くて、泣き虫で、黒崎君の後ろにいることしかできないから。
「……井上、本当に大丈夫か?」
「……え?」
「泣きそうな顔をしているぞ」
 ねえ朽木さん、そんなに心配そうな顔しないで。私は貴女が考えているよりずっと醜い。ずっと弱くて、ずるくて、それで。
「大丈夫だよ、心配しないで」
 ねえ朽木さん、私は貴女が羨ましい。でも、大好き。貴女みたいになりたいと思ってる。だから朽木さん、ずっと、変わらないで。私の想いになんか気付かない人でいて。
「ほら、行こう!」
「あ、ああ」
 困ったように笑う貴女の、何も訊かない優しさが好きだ。
 貴女はずっと、ずっとずっと、私の憧れの女の人。





一護を挟んだ女の子たちの関係が……本当に、好きです。

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