00部屋その四

□気にしてるのは1人だけ
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※北方水滸伝設定





「丁度良いとこに来たな、史進。飲んで行けよ」
 唐突にそう声をかけられ、史進は馬を止めた。
「……索超か」
「他に誰がいるんだ。今、丁度飲んでるんだ。お前も飲んで行けって」
 立っていたのは、林冲騎馬隊の策超である。史進率いる遊撃軍は騎馬隊で構成されているから、林冲騎馬隊の人間と史進の関わりは深い。史進と策超は仲が良い方であり、酒をともにすることも偶にあることだった。
「良いのか?」
「ああ。今日は久々に隊長もいるんだ。会ってくだろ?」
 なあ、と声をかけてくる策超に、史進も首を縦に振ってしまう。久々に酒を飲もうというのもある。しかし、どちらかと言えば彼の目的は、
「何をしているのですか、策超」
「……林冲殿」
「史進を飲みに誘ってたんですよ。良いですよね、隊長?」
「私は別に構いませんが……史進の方は大丈夫なんでしょうね?」
「勿論!」
 同じ師に学び、遠距離攻撃用の武器を使い、馬に乗る。共通点も多く尊敬している林冲の登場に、史進の体が若干強張る。気付いた策超が隣で笑うのに気付きながらも、史進は冗談一つ言えずにいた。

「林冲殿も、飲むんですね」
「いつも飲むわけではありませんよ。ただ、偶には飲まないと周りがうるさいので」
 暗に策超を指して言う彼に、史進の口から苦笑が漏れる。気付かないふりで策超は笑い、飲んでいた酒を差し出した。
「どうぞ、林冲殿」
 今、騎馬隊の面々は車座になって地面に座っている。騎馬隊の人間が飲む時は、個人でなければ店に行ったりはしない。基本的には外で、演習の熱気もそのままに酒を回して飲むのだ。
 策超から酒を受け取った林冲が、ぐいと甕を傾ける。ごくごくと白い喉が鳴り、史進の目が釘付けになった。
「時々は良いものですね」
「隊長は硬いんですよ。こういう息抜きも大事ですって」
「息抜きし過ぎるのも問題ですが」
「俺のことですか?」
 いつもは白い頬が仄かに染まり、林冲が少し酔っ払っていることが分かる。もう一口酒を飲んだ林冲は、「史進」と向かいにいた彼の名を呼んだ。
「はい」
 反射的に史進が答えると、林冲の手から酒が投げられる。
「ほら、キミも」
「えーっと、良いんすか?」
「私が渡したから、悪いはずがないでしょう」
 柳眉を寄せて絡み出した林冲を、まあまあと策超が宥める。だが、史進の脳内は別のことでいっぱいだった。
(これ飲んだら、林冲殿と間接キス……!)
 その前に数人が酒を飲んでいるわけだが、彼の脳内からはそのことは抜け落ちている。というか、その辺りはどうでもいい。彼にしてみれば、「林冲の直後」というのが問題なのだ。
 決して、そんなよこしまな目で見ているわけではない。だがしかし、憧れの人と同じ酒に口を付けるとなれば、気にしない方がおかしいのだ。
「あの、林冲殿……」 
 やっぱ今日はやめておきます、と言おうとすれば、釣り上がった眦と目が合う。
「私の酒が飲めないと言うんですか?」
 たった二口の酒で、彼は完全に出来上がっていた。
 頭痛を感じながら、史進は再び酒と向き合う。これはあちらの好意なのだから、無下にするわけにもいかない。というか、折角のチャンスでもあるのだから、ここでみすみす逃したくはない。
「……いただきます」
 言って、酒に口を付ける。
 そのまま一気に飲み干せば、視界の端で策超が笑い転げているのが見えた。
(策超の野郎、今に見てろ……! 後で突き倒して馬から落としてやる!)
 そんな不穏なことを考える史進とは裏腹に、林冲は赤い顔で「次私にもう一度」などと呑気に請求しているのだった。










策超、誰^^^^^^^^^^^^
完全に私の創作です策超。北方版と読み比べてもすごい崩壊っぷりだ^^
史進は純情馬鹿なイメージだったので、それを茶化す役がほしかっただけです。馬麟は北方版のキャラを崩したくなかったので、それで、策超……。
北方版ネタ史林は楽しいです。個人的過ぎる^^

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