00部屋その四

□プラトニックはもう終わり
1ページ/1ページ



 好きだってフィーロに言われてどんくらい経ったか、俺ももうよく覚えちゃいない。嘘だ。ちゃんと覚えてる。一年と二ヶ月とちょっと。細かいところは以下略で。計算するのが面倒だしさ。
 とにかく、結構な日が経った。
 それなのにキスもしてないって、どういうことなんだろーな。
 いや、別にフィーロを信じてないわけじゃないからな。フィーロが奥手だってことはよーく知ってるし、まあそれもしょうがないんじゃないかって思う。だってヘタレだし。ただ気になるのは、フィーロが、俺がそれをどう思ってるか気付いてるかってことだ。まあ、気付いてないだろうけど。気付いてたら気付いてたで性質悪ぃけど、気付いてないのもそれはそれで問題だよな。
 俺は、フィーロとキスがしたい。多分、それ以上のことも。
 でもアイツは馬鹿なことに、そういうことがしたいのに言いだせないらしい。しかも、俺がしたいと考えてるって可能性は、アイツの頭の中にはないんだよなあ、これが。アイツは俺を何だと思ってるんだよ。俺は不死身じゃない、健全な普通の成人男子だって言うのに。
 だから俺たちは一歩も前へ進めない。付き合って一年以上経っても、超健全でプラトニックな仲のままだ。
 あ、今俺の方から仕掛ければ良いだろって思った奴いただろ? 俺もできるならそうしたいけど、フィーロが許さないんだよな……。アイツ、奥手のくせに「初めては自分から」って決めてるみたいでさ。もしそのポリシーを破ったら、どうなるかは俺も分かんねえ。フィーロを傷付けることになるのは違いない。だから俺は、こんなにじれったく思っているけど、それを口にしたりしない。
 でもさ、そろそろ無理。
 何が無理って、好きな奴が隣にいるのに我慢することが無理ってこと。別に変な意味で言ったわけじゃねえけど……いや、結果的には変な意味に何のかもしんねえけど、とにかく、もう我慢ならない。
 キスしたいっていうか、アイツのヘタレさが。





「フィーロ」
 俺の隣、一緒にココア飲みながらサッカーを見てるフィーロに声を掛ける。肩を叩こうかと思って、やめた。そんなことしたら、ココアをこぼすに決まってる。
「あのさ」
 俺が喋ってる間も、フィーロの視線はテレビから動かない。あ、これは危ねえな。事前判断でそっとカップをフィーロの手から逃す。さすがのフィーロもこちらを剥く。視線が合った。
「キスしたいんだけど」
 雰囲気づくりも何もなく、俺は直球で告げた。
「は……」
 フィーロが凍りつく。赤くなる青くなる以前の問題として、俺が言った言葉の意味が分かんねえみたいだ。
 でも、考えてほしい。雰囲気づくりとかできるかよ。俺は何だよ、フィーロの彼女か。いや、確かに付き合っちゃいるけど、女みたいなことをすんのはごめんだ。俺にだって男としてのプライドはある。
「だから、」
「やめろ言うな分かったから!」
 繰り返そうとした俺の口に、フィーロが持っていたクッションが押し当てられる。息ができなくなった。つーか呼吸困難だった。
「げほっ、げほっ、げほっ……」
「あ、悪ぃ! 大丈夫か、隼人?」
「何とか……」
 俺の様子に気付いたのか、フィーロが慌ててクッションを退ける。まだげほげほと噎せていると、フィーロが背中をさすってくれた。やべえ、こいつ良い奴。ヘタレだけど。
 そんな、本人が耳にしたら怒るようなことを考えながら、さて次はどうしようかと考えてみる。ぶっちゃけ考えなしだった。いや、ほら、俺ってば考えるのは翔に遭わねえっつーかさ。おわかり? 分かってくれると信じてる。
 とりあえずマグカップをそこらに置いて、もういいからとフィーロに言うために顔を横に向ける。
 その瞬間だった。
「隼人、」
 真っ赤に染まり切ったフィーロの顔が俺のすぐそこに近付いていて、俺が振り向くとそれはもう吐息が混じり合うような距離で、その、
 キスされた。
 驚いて動きを止める俺。キスしたらなんか色々してからかってやろうと思ってたのに、色々と不意打ちだったから何もできない。何もできないのはフィーロも同じなんだろう。唇は十秒くらいくっついた後、物凄い勢いで離れてった。
「……フィーロ?」
 そのまま真っ赤な顔で向こうを向いているフィーロが心配になって、ていうか今更になっていきなりキスをしたということも気になって、躊躇いながら声を掛ける。すると、フィーロは視線を合わせないままで答えた。
「……隼人、お前、馬鹿だろ」
「え!? いやいやいやいや、俺何もしてねえよな!?」
「馬鹿だって。絶対に」
 何が、と言おうとして身を乗り出す。するとぐいっと胸倉を掴まれて、今度は歯と歯がぶつかった。
「いてっ」
「痛っ」
 2人同時に声を上げて、でも唇同士は離さない。舌も入れてないのに、こんなにキスが心地いい。思わずフィーロに手を伸ばすと、逆に向こうへ抱き寄せられた。
「煽るなって……」
「へ?」
「だから、煽るなって! 日本人はスキンシップとか苦手だって聴いたから、すげー我慢してたのに……」
「は? あの、ちょ、フィーロ?」
 宙を彷徨っていた手を上へやり、フィーロの顔を固定する。睨むようにじっと見ると、フィーロの顔が赤くなった。
「フィーロさ、我慢してたわけ?」
「当たり前だろ!」
「いや、俺も我慢してたんだけど」
「……え?」
「だから、俺も我慢してた。フィーロが超奥手って聴いてたから、俺からやったら怒るかと思ってさ……」
 しばし互いの顔を見たまま、言葉の意味を脳内で考える。
「……馬鹿だな、俺たち」
「……ああ、すげー馬鹿だ」
 もっかいしたキスは、待っていた分、馬鹿みたいに時間が長かった。











成田キャラ×戌井企画「せかいぬっ!」様に提出させてていただきました。 
フィーロをBLに絡めるのは初めてでした。そして奴の攻めはとても難しい……しかし私はフィ戌だと言い張りますよ!
奥手×余裕に見えて、キスのたびに赤面してたら可愛いな、と。そんな妄想。ここから先も互いに我慢してあわあわしてりゃ良いと思います。
素敵企画参加できてとてもうれしかったです^^ 広まれ戌井の輪!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ