00部屋その四

□欲望の成れの果て
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 どんな女かと言われれば、悪い女だと答えよう。その身で他人を破滅に導く姿は、まさしく悪女と呼ぶにふさわしい。
 でも、嫌いかと言われれば嫌いじゃない。どころか好きだ。恋してしまっている。
 彼女の魅力は悪女の色気だけじゃない。それとはアンバラスな子供みたいな言動も、理屈屋なところも、実は純情な(と俺の本能が告げている)ところも、全部総合して、折原臨美という女は魅力的だ。
「俺、あんたのことが好きですよ」
「ふうん。そう、ありがとう」
 俺が言った言葉に、臨美さんは唇を歪めて笑う。俺相手に本性を偽る必要はないと思ったからか。それとも、俺を鬱陶しいと思い、遠避けようとしているのか。後者なら逆効果だ。何しろ、その歪んだ笑いはとても色っぽいのだから。
「千景君は本当に女性が好きみたいだね」
「確かに好きですよ。でも臨美さんのことは特に好きです」
「口が巧いね」
「本心ですから」
 逃れることなど許さない。身を乗り出して、真っ赤な目を覗き込む。ほら、そしたら俺だけが映る。
「臨美さんは、俺のこと好きですか?」
 どう返されるか、なんて分かっていた。でも、訊かずにはいられない。
「好きだよ」
 臨美さんは、より一層微笑んだ。
「私は人間全てを愛しているからね」
 やっぱり、そう答える。歪んだ笑顔が魅力的だ。思わず手を伸ばして頬に触れようとすれば、ぺちりと叩き落された。
「意外と純情なんですね。恋した男にしか触れることは許さない主義ですか」
「君みたいにスキンシップ過多じゃないんだ。残念だったね」
「そうですか。本当に残念です。もうちょいでキス出来る距離なのに」
「そんなことばっか言ってたら、見持ちの硬い女には嫌われるよ?」
「たとえば臨美さんみたいな?」
「俺は誰も嫌いにならないよ」
「じゃあ、見持ちが硬いのは認めるんですね?」
「私は人類みんな平等に愛してるから、誰か一人に俺を独占させるわけにはいかないんだよ」
 そう言って嘯いてみせる臨美さんに、俺は少し安心する。良かった。体で情報を買っているという情報は嘘だったみたいだ。別に信じてたわけじゃないけど。もし仮に臨美さんが体で情報を買っていたとしても、俺はそれを受け入れられる自身がある。抱いて抱いて抱いて、俺以外が触れた感覚を忘れさせるだけだ。
「じゃあ、俺だけが独占したら駄目ですか」
「愛してくれるのは結構だけどね」
「でも愛してるから独占したい。臨美さんはそんな俺を拒絶するんですか?」
「愛情だけ受け取っておくよ」
 長い睫毛が上下する。ああ、今すぐその綺麗な睫毛に口付けたい。そのためなら何時間だって何日だって惜しくないのに。
 臨美さんは、俺の中に俺じゃなくて人間を見ているのだろうか。つまり、臨美さんにとっては俺という個人じゃなくって人間の一人に愛されてる感じ? そんなの耐えられない。
 俺だけ、見てほしい。
「静雄が羨ましいな」
 素直にそう口に出せば、綺麗な眉毛が片方だけ持ち上がった。
「シズちゃんが何だって?」
「静雄は臨美さんの視線を独占できる。臨美さんの思考を独占できる。個人として臨美さんに独占してもらえる。羨ましいなあ、静雄」
「君は好きな相手に嫌われたいのかい?」
「違いますよ。ただ、臨美さんに俺を見てほしいだけで」
 実際、静雄みたいになるのはごめんだ。嫌われたいわけじゃない。
「臨美さん。俺に対する好きと静雄に対する嫌い、どっちの方が大きいですか?」
 そう訊けば、美しい顔が露骨に不快に染まる。返答は求めちゃいない。聴きたくなんてない。
 だって答えは分かってる。
 無理矢理その頬を引き寄せて唇を塞げば、頬を思いっきりはたかれた。
「人類に対する愛だよ。でも、こういうことは不快だ」
「そうですか。でも俺は臨美さんが欲しいんです」
 だから、抱かせてください。
 懇願というには傲慢な響きで一方的に告げ、臨美さんの細い肩をソファに押し付ける。覗き込むと、真っ赤な瞳が俺を映した。
「無理やり抱いても俺のことを愛してくれてるって言うんなら、俺はその一時だけあんたに見てもらうことにします」
「……最悪」
「愛してますよ、臨美さん。だから、人類なんかじゃなくって俺だけ見てください」
 俺を好きにならない臨美さんが悪い。
 そんな免罪符を口にして、その日、俺は初めて女を強姦した。










六臨♀の広まりを応援します。もっと増えろ! 六臨♀!
にょたである必要性なくね? とか、このろっちー若干病んでね? とか、そういう疑問は受け付けないんだぞ!

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