00部屋その四
□貴方が居たので。
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最近、「自我」が生まれ始めた気がする。
前までは、思考して全ての受け答えを行っていた。だけど最近は、考えているよりも先に口を動かしているような……。
打算も何もない、普通の会話をしてしまっている気がする。
「シャム」という大きな意識なのか、それとも「シャム」である「個人」の個人的な感情なのか、その境界線がとても曖昧だ。
いつから?
「あぁもう、何やってんですか。コンクリートの上なんかで寝てたら、体に悪いですよ。……あ、やっぱり寝たままで良いです。風邪引いて少しは大人しくなってくれれば良いんですけどね……」
いつからこんなことを言うようになったのだろう。
リカルド……いや、リディアと意識を共有するようになってから?
それもある。おそらく、最初のきっかけはそれだろう。
でも違う、それだけじゃない。もっとたくさんのことがあって、色々な個体で色々な人間と関わっていた結果、こんな風になっていた。
だけど……だけどそう、一番のきっかけは、
俺を変えた、一番のきっかけは、
「シャフトお前、俺が聞いていないと思って散々言いやがって、シャフトのくせに!調子に乗るな!死ね!」
「ぐはぁっ」
この人だ。
「大体……大体お前は、俺専用ツッコミマシーン兼俺専用サンドバックだろう!?なんで俺の許可を得ずに勝手に俺に対する悪意を持った言葉を吐く!?生意気な!喋るな!!」
「喋らなかったら突っ込みできませんよ!?」
「うっ……」
巨大なレンチが腹にめり込み、「シャフト」の個体は腹を押さえて座り込む。体をくの字に曲げてもだえ苦しんでいるのだが、そのボスはすっきりとした晴れやかな笑みだ。
実に単純明快、ストレス発散をできて嬉しそうな表情。
苛々するとすぐ人にぶつける。子供のように身勝手に怒って、そのくせに自分が認めた他人には優しい。
この人が。
この人が居たから、俺は。
「本当に理不尽っすよ……」
この人と出会って、俺はいつの間にか変わっていた。
今まで「大勢の中の一人」として目立たないように行動していたのに、気付けば「シャフト」は大勢の中の一人からはみ出していた。
ただ一人のことを世話して、その一人のために料理もして、毎日毎日暴力を受けながらもツッコミを入れて。
仲間でいれるよう、任務などをこなすためだったはずなのに、いつの間にか、打算も何も無くそんな行動をしていた。
挙句の果てには、俺が居なくなったらこの人は困るだろうなぁなんて、そんな甘いことも考えてみたり。
あぁ、本当に。
俺は、「シャフト」は、「シャム」は、グラハム・スペクターに惚れこんでしまったのだ。
「グラハムさん」
「何だ」
「起きてください、昼飯の時間です」
だってほら、その眩しい髪が、世界の果てのようなブルーアイが、悪戯げな微笑みが、とても愛おしい。