00部屋その四

□消さない記憶
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 どさり、とベッドの上に押し倒すと、一瞬状況についていけないような目が俺を見た。その視線が心地良くて、俺は顔に愉悦の表情を浮かべる。この男のこの表情を、酷く気に入っている。いつもの余裕差が感じられない表情と言うのは、なんと気持ち良いのだろう!ロックオン、と普段アレルヤがするように優しくその名を呼べば、ロックオンは呆けたような顔をした後、ハレルヤか、と気の抜けた声で俺の名前を呼ぶ。頭を撫でようと伸ばされたその繊細な手を払ってから、俺は組み敷いた体の両肩の横に手をついた。茶色くて柔らかい髪が、俺の手に触れる。引っ張ってやりたくなるような髪だ。
「……抵抗しねぇのかよ、アンタ。いつまでもお人好し気取ってんのなら、食うぜ」
 少しイライラしてそう言うと、何がおかしいのか、ロックオンはクスクスと笑いをこぼした。何が面白いんだよ、本当気に食わない。その白い首に両手をまわし、少し、力を込めた。すると途端に見開かれる、鮮やかで鮮やかな目。緑色はビー玉のような色、明るく透き通っていて壊したい色だ。ギュッとそのまま力を強めれば、掠れた声が俺の名を呼んだ。
「……ハレ、ルヤ」
「何だよ」
「ハレルヤ、手を、離せ。何がしたいんだよ、お前は」
 何がしたい?そんなの分かるはずがない。ただ首を絞めたくなった、それだけだ。自分の衝動的な感情に従って何が悪いんだ?全ての感情に意味があるんなんて、そんなこと本気で考えているのか?だったらアンタは大馬鹿だよ。色々な言葉が胸の中に浮かんできたが、それを口にする代わり、俺は耳元に唇を寄せた。
「愛したい」
 これじゃまるでアレルヤだ。冗談なのに、ロックオンの表情が何処か安堵したものになる。馬鹿じゃねぇの、本当。なんでこんな餓鬼みたいな嘘に騙されてんだよ。良い大人のくせして、悪意のある嘘なんて信じてないのか?
 この眼球を抉り取ってやりたい。鮮やかな光を奪って、空っぽにしてやりたい。そしたらもう、アレルヤがこの男に心を奪われることなんてない。そのはずだ。なのにその緑は、今のこんな状況にも関わらず、まだその光を宿していやがる。何なんだよ、もう!何で怯えねぇんだよ、何で!
「ハレルヤ」
 低くて甘い、まるで包み込むような声が、優しく俺の名を呼んだ。睨みつけてやるが、動じた様子はない。ロックオンは再度、俺の名を呼んだ。
「ハレルヤ、愛してるぜ」
「……嘘だろ。アンタが好きなのはアレルヤだ」
「よく分かったな。……そう言うお前こそ、俺じゃなくアレルヤのことを愛してるんだろ?」
「ハッ、分かってんじゃねぇか」
 この目を滅茶苦茶にしてやろう。その目に浮かぶものが恐怖だけになるように、その鮮やかな色を濁らせるように、そして、
 そして、もっと俺の名前を口にするように。


(あぁ本当は分かってるさ、どんなにアレルヤがこの男に焦がれても、一番強烈な感情を受けているのは俺ままでいられるって。でも、でも糞、)
(この男が呼ぶ俺の名前が、頭から離れねぇんだ!)










 

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