00部屋その壱

□酒厳禁!
1ページ/1ページ




「楽しい、楽しい話をしよう! 酒場はいいな、俺は酒を造った人間に感謝する! 酒は太古の恵だ、先人の知恵だ! 酒を開発した人類は全くもって素晴らしい! しかも何がすごいって、一人が作ったわけじゃないってことだ。世界の色んな場所で全く無関係に酒が生まれたんだ。お前はこれをどう思う!? すごいことじゃないか!? 酒は人間によって生み出される運命にあったってことだ!」
「はいはい、そういう話は酒を飲める人がしましょうね」
 グラハム率いる愚連隊が行きつけにしている、闇酒場。
 酒場なのにノンアルコールがやたらと充実しているこの店の中央付近のテーブルで、ジョッキを煽って、グラハムは叫んだ。
「人間は素晴らしい!」
 口の周りに牛乳のひげができているのだが、本人は全く意に介していない。
「そしてそんな人間であることを、俺は誇りに思おう!」
「はいはい、分かりました」
「シャフトー、お前さっきからノリ悪くないか?」
「悪くもなりますよ」
 オレンジジュースをすすり飲みして、シャフトは息をついた。
「折角酒場に来たっていうのに、グラハムさんに気を遣ってノンアルコール飲まなきゃいけないんすから……」
 シャフトは別に、アルコールが飲めないわけではない。そんな彼があえて酒を飲まないのは、ひとえにグラハムに気を遣っているからだ。別に、遠慮しているわけではない。本当に、純粋に、気を遣っているのだ。
「本当に困った話っすよ」
 ため息をついたシャフトは、おや、と顔を上げる。いつもならこのあたりで「うるさい」とレンチで殴られるところだが、今日に限ってそれがない。
「……」
 嫌な予感がした。
 正面に視線を遣れば、巨大なレンチを机の上に置き、ぐでん、とグラハムが潰れている。
「グラハムさん!?」
 呼びかけるが、返事はなし。とろんとした目が、ちらりとこちらを見ただけである。
 シャフトは叫んだ。
「誰か酒頼んだ!?」
 グラハムの厄介さは、まさにここにあった。
 グラハムは、恐ろしいほどの下戸だ。酒を飲まなくとも、酒が肌に触れただけで酔っぱらう。それだけではない。酒の匂いにも酔うことができるのだ。
 新入りの少年が、おずおずと手を挙げる。どうやら、何も知らずに酒を頼んだらしい。
「あの……まずいんですか?」
「まずいも何も……」
「なあ」
 他のメンバーは顔を見合せながら、ぐでんと潰れるグラハムを見遣る。
「この人、生粋の下戸だからなあ」
「元から酔っ払ってるみたいな性格だから、アルコール摂取したら一気に潰れるんじゃねぇの?」
「かも」
 ぼそぼそと各々が自分の意見を述べているのを見ながら、シャフトはため息をついて立ち上がった。
「解散にするか」
 この愚連隊の実質のナンバー2は、シャフトである。他の少年少女も彼に従って、渋々ながらも腰を上げた。
 勿論、酒代をグラハムにつけておくことは忘れずに。







酒に弱いグラハムさん^^

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ