00部屋その壱

□すっかりおなじみ
1ページ/1ページ



「そんじゃぁ行くぜぇ、林冲!」
「ええ、望むところです」
 梁山泊にある広場の中央。
 二人の男が、それぞれの武器を手に向き合っていた。
「はっ」
「やっ」
 林冲が付き出した蛇矛が、楊志の剣とぶつかって鈍い音を立てる。それに笑ったのはどちらだったか。次の瞬間には刃が離れ、そして、重なっていた。
「やるなぁ、さすがは豹子頭」
「昔の話ですよ!」
 ガキンガキン、と二振りの刃物がぶつかり合う。実力は伯仲。どちらも満ち足りた顔をしている。
 そして、それを眺める人物が一人。
「お二人とも、精が出ますね……」
 罪人として捕らえられ、果てに梁山泊まで逃れて来た宋江だった。彼の呟きに、偶然通りかかった蒋敬が苦笑しながら同意する。
「楽しそうですね、二人とも」
「ですよね」
「って、何どっか行こうとしてるんですか!? 宋江様は今から仕事ですよ!」
「仕事ですか……」
「はあ、じゃないですからね!」
 怒った蒋敬が、ずるずると宋江を引き摺りながら広場を後にする。だが、そんなことは、二人の視界に入っていなかった。
「まだまだ!」
「こちらだって!」



「いやぁ、さすがに豹子頭は強いねぇ」
 ぐいっと酒を飲みほした楊志のことばに、「それはそうよ」と朱貴が言葉を返した。
「うちの阿吽のコンビを退かせるほどなんだから」
「あんな顔してどこに力があんだかなぁ」
「もう酔ったの?」
「酔ってねぇよ」
「酔ったんならその酒は俺に寄越せ」
「誰がやるかよ! ……って、晁蓋」
 横から徳利に伸びてきた手を叩くと、いつのまにか楊志の隣に座っていた晁蓋が、ぼりぼりと頬を掻きながら言う。
「堅いこと言うなって」
「飲みたきゃ自分で払え!」
「そうよぉ、頭領殿」
「チッ……最近俺に対する扱い低くねぇか? 呉用のが移ったのか?」
「さっき、その呉用があんたのこと探し回ってたぞ」
「ふーん」
「ふーんじゃねぇだろ、またサボりか」
「彼も苦労するわねぇ」
 おほほと笑いながら、朱貴が注文されていた饅頭を出す。途端、楊志は目を輝かせた。
「美味そう!」
「味わって食べてよ」
 二つあったうちの一つを、むんずと掴んで口の中に放り込む楊志。と、頭上から伸びてきたもう一つの手が、すかさず残りの一つをかっさらって行った。
「いただくぜ」
「オイコラ戴宗!」
 まさに神業のスピードで食い逃げを行おうとする戴宗の首根っこを、反射的に楊志が掴む。だが、その次の瞬間には、戴宗の剣が楊志の首筋に当てられていた。
「触んじゃねぇ」
「あぁ?」
 まさに一触即発。楊志も自らの剣を抜き、戴宗と向き合った……が、
「店の外でやってくれない?」
 向かいの壁に朱貴が投げた包丁が刺さった瞬間、二人とも剣を下ろした。
「……」
「……オイ、朱貴」
「ほらほら、喧嘩は良くないわよ?」
「いや、えっと」
「コイツに逆らっちゃ、食いもんの供給源断たれんぞ」
「……そうだな」
「戴宗クンの分はこれ。ちゃーんと自分で払ってね」
「……おう」
 渋々ながら席に着いた二人が、互いの顔を見てからぷいっと横を向く。
「気が合いそうなのにねぇ」
 近くで見ていた扈三条が言うと、「そうですね」と苦笑した翆蓮が、「でも」とにっこり微笑んだ。
「すっかり馴染んだみたいで良かったですね、楊志さん」
「でもあれはいくらなんでも馴染み過ぎじゃない?」
「そうですか?」
 こうして、またひとり、梁山泊に好漢が加わっていく。







遅くなってしまいすみません! 100000打リクエストで「楊志が替天行道入りした話」でした!
まあぶっちゃけ梁山泊入りしてからですが……だって、原典の時系列だとそうなっちゃいますし。何よりもみんなと絡ませたかったんです^^
とても楽しみながら書きました。リクエスト有難う御座いました!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ