00部屋その壱

□煙草と口づけ
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 エクシアの整備も終わり、身体訓練でも行おうかと、施設から外へ出た。途端に降り注ぐ日差しに構わず、俺は森の中へと向かう。足腰を鍛えるつもりだった。
 だが、そこには先客がいた。
「……ロックオン」
「よぉ、刹那」
 俺より先にそこにいたロックオンは、口に何かを銜えていた。そして、手には古めかしいライター。
「煙草か」
「ミス・スメラギには内緒だぜ」
「お前は煙草を吸うのか?」
「時々な。体に支障が出ない程度に」
 手袋に包まれた指が煙草を挟み、ふう、と煙を吐き出す。その仕草は、妙に世慣れて見えた。まるで、ガンダムマイスターのロックオンじゃない誰かが、ここにいるみたいだ。
「……今のお前は、ニール・ディランディなのか?」
「さあな。どう思う?」
 どんどんと吐き出されていく煙。ぼんやりとそれを見ていると、視線に気付いてロックオンが振り向いた。
「お前も吸うか?」
「いや、」
「ま、吸わないに越したことはないな」
 にやっと笑う、笑顔が眩しい。俺が何者か知ってなお、お前はそうやって笑う。いつもと、変わらぬように。
「一本やるよ」
「……え?」
「いつか、吸いたくなったときのために」
 ほら、とロックオンが煙草を投げて寄越す。反射的に受け止めると、次はライターが飛んで来た。
「それもやる」
「……いいのか?」
「気にすんなよ。お前さん、煙草の買い方も知らなさそうだから」
 なあ、と笑ったロックオンが、俺の頭をポンポンと叩く。子供扱いするな、と言おうとしたのをやめて、されるがままに任せた。
「……ロックオン」
「何だ?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
 手袋越しの温もりが、これ以上なく心地良かった。



 煙草を口に銜え、俺はゆっくりと火を点けた。
「……よし」
 今から、ライル・ディランディを迎えに行く。
 その男は、煙草を吸うのだろうか。あの男のように、時々しか吸わないのだろうか。何も、知らない。俺が知るライル・ディランディは、データの中の男のみ。
「ロックオン」
 煙に乗せて吐き出して、もう一度、煙草を深く銜える。
 俺は、煙草とディープキスをした。











夜中に目が覚めたときにつらつらと考えたネタ! 最後の一文が書きたかった。

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