00部屋その壱

□小さな恋
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※現代パロ
※ニールが先天的に女性







「姉さん、今日の夕食何?」
 大学から帰って来たライルが、身を乗り出して鍋の中を覗き込む。ライルの吐息を首筋に感じ、くすぐったいなあ、とあたしは目を細めた。
「ポトフ」
「マジで? 腹減ったなあ」
 もう腹ぺこぺこだと言いながら、ライルの体があたしから離れる。温もりが離れたことにほっとしつつ、あたしは肩越しに振り返った。
「気になるんなら、先にシャワー浴びてこいよ」
「はいはい」
 こうしてライルと暮らすようになって、もう三年経つ。全寮制のハイスクールに通っていたライルが大学に進学し、偶然にもあたしが通う大学と近い大学を選んでからだ。あたしの方がバイトが早く終わるから、料理は必然的にあたしが作っている。まあ、ライルがそれほど料理をしたがらないというのもあるけれど。
「姉さん、三年の間に料理巧くなったよなあ」
「そうか?」
 こうして会話していると、姉と弟というよりまるで母子のようだ。苦笑しながら、あたしは鍋をかき混ぜる。
 あたしから近付くと「女なんだからもう少し意識してくれよ!」と文句を言うくせに、ライルはこうして無意識であたしに近寄ってくる。息が感じられるくらいの距離で。
 それを意識するようになって、一体どれくらい経つだろう。
 女扱いされると「考えすぎだろ」と思うと同時に、少し嬉しくなる。近寄ってくると「可愛いな」と微笑ましくなると同時に、女として意識されていないのかと少し悲しくなる。
 なんて勝手なんだろう。
 あちらは何も考えていないに決まっているのに。
 いつからだろう。自分とほとんど同じ顔をした弟のことを、男として意識するようになった。自分と違って広い肩幅、逞しい腕、低い声。可愛かっただけの弟が「男」になっているのだと気付いたときの、あの、感慨と切なさが入り混じった気持ち。
「1人でうだうだして、馬鹿かっつーの……」
 ため息をつきながら、鍋の火を止める。エプロンを解き、机にかけたときだった。
「何が?」
 浴室から戻ってきたライルが、あたしの手の上に手を乗せたのは。
「っ、ライル」
 弟の予想外の行動に、声が少し裏返る。何が面白かったのか、ライルはくすりと笑みを漏らした。
「何かさ……こうしてると、新婚みたいだよな」
「……からかうなよ」
「からかってなんかねぇよ」
 すっとあたしの背後に回ったライルの腕が伸び、あたしの腹の前で重なる。
「姉さん」
「ライル、お前なあ」
「……ずるいよな、姉さんは」
 肩に顎が乗ったかと思えば、耳に息を吹き込むような言葉。肩が跳ねた。
「俺がどんだけつらいか、分かってねぇだろ」
「つらいって……」
「あのな、いくら姉弟って言っても、年頃の男女だろ。姉さんはいつも無防備過ぎるんだよ。俺がどんな目で見てるか、分かってんのか?」
 突然顎を掴まれたかと思えば、ぐいと引き寄せられる。柔らかい感覚。
 口付け。
「好きなんだよ、姉さん」
 好きだ。
 他の言葉を知らないかのように苦しげに繰り返す弟の姿は、ぞくりとするほど魅力的で、それでいて、どこまでも愛しくて。
「……馬鹿だなあ、ライル」
 組まれた手にそっと手を添えて、あたしはライルに身を預けた。
「あたしもだよ」
 弟だから可愛いのか、それとも愛しい男だから可愛いのか。そんなこと、もうどっちでも良くなってしまった。








ノリで書いた。後悔はしていない。

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