00部屋その壱

□〜2011静臨♀過去ログ
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※臨也女体化(=臨美ちゃん)
 エロじゃないけど生々しい話。24にちょこっと載せてたやつ。
 来神時代




「新羅あ、お腹痛い……」
「薬は?」
「効いてたら苦労しないよ。全然効かない」
「効かないって言われても、いくら僕でもあれ以上強い薬は処方できないからねえ」
「もう最悪お腹痛い鬱になりそう」
「市販の鎮痛剤は?」
「効いてたら苦労しないよ」
「それは確かに」

 私は生理痛がひどい。ひどいというかむしろ酷い。月に一度こうしていつも悩まされる。もう痛いとかいうレベルじゃないくらい重い、ここまでくると病気だと思う。市販の鎮痛剤は全くと言って良いほど効かないし、医師の処方箋なしじゃ使えない所謂避妊薬(新羅に特別に出してもらっている)も最初の頃は効いていたんだけど最近はだんだん効かなくなってきた。でも、これでもマシな方だ。中学の頃はこのシーズンになると毎月三日間休んでいた。それか早退または遅刻。高校に入る前に新羅に薬を貰うようになってからは、何とか学校には来れるようになった。本当に、何とか。電車通学とかじゃなくて良かったとつくづく思うレベルだ。でも、痛い。本当に痛い。お腹は痛いし腰は痛いし寒気はするし吐き気はするし、頭も痛い。しかも体がだるい。何も考える気にならない。生理痛は遺伝性もあるらしい。じゃあ私の二人の妹にもこの遺伝は行くのだろうか。舞流とか、全然しんどくなさそうに見えるんだけど。でも私だけも嫌だなあ。だってそれってすっごい不公平じゃん。

「もう何も食べる気にならない……。メロンパンあげる」
「ええ……臨美と間接キスか……」
「気持ち悪いこと言わずに食べなよ、刺すよ」
「俺は一途だから、キスはセルティ以外とはしないって決めてるんだよねえ」
「セルティ首ないじゃん。新羅キモい死ね」
「誰ともキスしないってことだよ。ていうか不機嫌だからって僕に当たらないでよ」
「うるさい」

 スカートの内側から取り出したナイフを新羅の首筋に当てて脅すと、大袈裟に新羅が悲鳴を上げた。ちなみにここは教室のど真ん中。そして昼休み。なのに誰も新羅を助けようとしないのは、もう日常茶飯事だからだろう。人は誰しも厄介事とは関わりたくないものだ。ドタチンがいたら止めてくれるんだろうけど、そのドタチンは現在教室内にいない。私に情報によれば、隣のクラスの女子からの告白で呼び出されているはずだ。振るんだろうなあドタチン。

「臨美さあ」
「何?」
「女の子なんだから、スカートの内側から取り出したナイフを男の首筋に押し当てるのはどうかと思うよ」
「新羅セクハラ」
「誰も臨美に好んでセクハラなんてしないよ……」

 そういえば、シズちゃんも教室内にいない。何やってるんだろうねえ。知ってるけどさあ。私がちょっと頼んだ人たちがシズちゃんを体育館にて待ち伏せしています。きっと今頃シズちゃんは交戦中。本当は見に行くつもりだったんだけど、お腹痛いからやめた。どうせシズちゃんが勝つんだし。私に操られてはくれないくせに、シズちゃんの喧嘩の結果はいつも予想できて面白くない。どうすれば結果が変わるかなあ。弟君絡みにしてみるのも良いかもしれない。あ、でもそうすると私が妹に怒られるか。それにしてもお腹痛いなあ。保健室にでも行こうか。

「……保健室行ってくる」
「……本当に大丈夫?」
「なに、新羅が心配? どうしたの気持ち悪いよ」
「失礼だね、人が珍しく心配してるっていうのに」
「薬効かないし気持ち悪いんだよ、しょうがないじゃん。行きに吐いてくる」
「臨美さ……」
「女の子だからとかはなし。シズちゃんが来たら帰ったって言っといて。どうせシズちゃん獣だから保健室に嗅ぎ当ててくるんだろうけどさあ」

 嫌になっちゃうよ本当に。シズちゃん死ね、死ね、死ね、死ね。死ねば良いのに、ていうか消えれば良いのに。保健室で寝てる女の子に襲撃とか犯罪だよねー。きゃーシズちゃん変態―。
 とか思いながら私がドアを開けようとした矢先、ドアが開いて本物が現れた。

「……げっ」
「のーーぞーーーーみーーーーーーーーー」

 米神に青い血管を浮き上がらせたシズちゃんが地を這うような声で私の名前を呼ぶ。うえ、重低音が腹から耳に振動として伝わって響く。痛い痛い痛い痛い響く! ヤバい、立ってられないかも。

「テメェよくも…… !?」

 一瞬ふらついた。生理って大抵貧血と一緒に来るんだよねえ。
ぐらり、とよろけて倒れ込みそうになった私の体を、ほぼ反射的に伸びたシズちゃんの腕が支える。ゴツゴツしたシズちゃんの腕。うええ気持ち悪い。あのシズちゃんの腕が私の体に触れてるんですけど。セクハラ!

「オイ、臨美!?」

 驚いたような顔のシズちゃんが私の名前を呼ぶ。頭がガンガンする。お腹がズキズキする。腰が、重い。重低音が体に響く。ああ、苛々する。何なの、何でこのタイミングでシズちゃんが現れるわけ? どれだけ私のこと嫌いなわけ? ウザい、ウザ過ぎるよシズちゃん。

「離してよ」

 気付いたらスカートの中から現れたナイフがシズちゃんの首筋に赤い線を一筋引いていました。だって鬱陶しいんだもん、シズちゃん。触らないでくれないかな。これまた反射的に私の手首を掴んだシズちゃんは、その手に力を込める。ぽろり、とナイフが手から落ちた。普段はこんなことないんだけどなあ。ああお腹痛い。だって体が重いんだもん、避けられないのも仕方がない。

「離してよって、テメェが勝手に倒れてきたんだろうが! テメェは礼儀ってもんを知らねぇのか!?」
「うるさいなあ……シズちゃんに言われたくないよ」
「アァ!?」
「ちょ、ちょっと静雄……それに臨美も落ち着きなよ」

 いつもはこれくらいじゃ止めに入らない新羅が、珍しく止めに入る。ああ、気を遣ってくれてるんだろうなあ。いらないけど。女扱いされてむしろ鳥肌が立つ。気持ち悪い。あ、本当に気持ち悪い。吐きそう。

「うるせえ、こいつが喧嘩売ってきたんだよ!」

 シズちゃんの声が、一段と頭に響く。
 ブチリと何かが切れる音がした。

「シズちゃんさあ……」

 痛む腹の底から、自分のものとは思えないほどに低い声が絞り出される。

「ちょっとうるさいから黙ってくれない? シズちゃんのその鬱陶しい低い声がさ、頭とお腹に響くんだよ! 分かる? シズちゃんには分からないだろうねえ分かっていたらこんな地味な嫌がらせできないもんねえ? 本当に痛いんだよ響くんだよしかも苛々するしていうか吐きそう。私今かるく鬱だったんだけど、シズちゃんのせいでそれが更にひどくなったんだよ。鳥肌立つから離してくれないかな? 私今からトイレで吐いて保健室で寝ようとしてたんだよ。シズちゃんなんかに構ってる暇はないんだよ、分かる? ていうかシズちゃんが視界の中にいたらもっとひどくなるから消えて。お願いだから消えて」

 痛みを声に変換するかのように一気にまくし立てて腕を振り払うと、意外とアッサリと振り払うことができた。見上げたシズちゃんは呆然としていて、世にも珍しい間抜け面だ。いつもなら笑ってやるところだけど生憎今日の私にはその余裕はない。無駄に大きい体を押し退けてドアを通り抜けると、教室の隣の隣にある女子トイレに向かってとりあえず歩き出した。うえ、もう喉の奥までせり上がってきた。メロンパン全部出そう。
 それもこれも全部シズちゃんのせいだ。最悪、もう本当に死んでしまえ、シズちゃん。大嫌いだ。




 ふらふらになりながら教室を出て行く臨美の後姿を、僕はため息をつきながら、静雄は呆然としながら見ていた。

「あーあ、」

 よっぽど体調が悪かったんだろうなあ、臨美。いつもの彼女なら絶対に自分の体調が悪いことなんて悟らせようとしなかっただろうに、今回はむしろ自分からそれを口にしていた。あまつさえ自分の行き先まで口にして。どうやらそこまで頭が回っていなかったらしい。

「静雄のせいだよ」

 俺が声をかけると、立ち尽くしていた静雄がのろのろと振り向いた。

「……アイツ、どうしたんだよ」

 珍しく心配そうな声で訊かれ(静雄も同じことを思っていたんだろうか)、俺は表情を曖昧にした。

「……それ、俺に訊くかなあ」
「熱でもあんのか?」

 それにしちゃあ顔色蒼かったけど、なんてことを言う静雄は超鈍感さんだ。鈍感さんっていうか、馬鹿だ。女の子の兄弟がいない普通の男子なんてこんなもんなのかなあ。
 諦めて、僕は静雄に手招きした。素直にやって来た静雄をしゃがませて、耳元で囁く。

「……臨美だって女の子なんだよ」
「ハア? それがどうしたんだよ」
「……これ以上言わせたら、セクハラだよ。私は別に気にしないけど、まあ、臨美に本当に嫌いになられるのは間違いないね」
「アイツに嫌われても別に……、 ……、……!」

 静雄の顔が赤くなる。と思ったら青くなった。

「あ、分かった?」

 やっぱり免疫ないなあ。静雄って本当に、何ていうか、健全だよ。

「そういうことだよ」

 そう言いながら、僕は結局置き去りにされたメロンパンをかじる。
 へなへなと床に座り込んだ静雄は大きな掌で顔を抑えており、何と言うか、うん。



 青春、ですねえ。











(やっちゃったよ……! 苦手な方には申し訳ない)
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