00部屋その壱
□〜2011狩沢受けログ
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遊馬崎と渡草が自販機に飲み物を買いに行った。ので、ワゴンの中には必然的に門田と狩沢が残った。
門田は助手席で買ったばかりの文庫本を読んでいる。狩沢はいつもどおりに後部座席で、何やらガチャガチャのカプセルと悪戦苦闘していた。しかしついに降参したのか、彼女はひょいと前方に身を乗り出す。
「ドタチン」
「何だ?」
「これ、開けて」
ほい、と渡されたのは可愛らしいマスコット携帯ストラップが入ったカプセルである。普段は女子というより化け物に近い(と門田は常々思っている)狩沢だが、こういったものを携帯にぶら下げているところを見ると、やはり女子なのだということを門田は思う。たとえそれがもやしもんの菌であっても、だ。
「どうしても開かなくってさー。お願い!」
パチン、と両手を合わせて頼み込まれて断るほど、門田も性格が悪くはない。元より断る理由もないのだ。「おう」と答えてそれを受け取った門田は、スピンを挟んだ本を膝の上に置くと、カプセルを持つ手に力を入れた。
「あ、カプセル壊さないでねー」
後ろからのんびりと狩沢が言う。壊すわけないだろうと思いながらも、門田も一応手加減して開けることにした。
パカッ
カプセルはいとも簡単に開いて、中から黄色いマスコットが姿を見せる。
「ありがとー、ドタチン」
門田の掌の上からそれを受け取ると、狩沢ははしゃいだ声を上げた。
「ドタチン格好良いー。頼れるメンズが好きな女の子はイチコロじゃん」
「イチコロってお前、今時使うかよ……」
「きゃードタチン格好良いー。ときめきポイント+1−」
ごそごそと取り出した携帯に早速マスコットをつけ、「あ、そうだ」と狩沢はバッグの中を漁る。
「はい、ドタチン」
それは、まったく同じマスコットだった。
「……はぁ?」
「お礼。ダブったからゆまっちにあげようかと思ってたんだけど、開けてもらったのに何もなしってのも悪いじゃん」
「いや、お礼も何も俺はそういうのは……」
「つけないんだったら家に置いとくだけで良いよ? 私の心の問題だし」
はい、と掌に乗せられては、返すこともできない。渋々ながらも門田が受け取ると、狩沢はにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、ドタチン」
邪気も何もない笑顔に、門田の眼球は一瞬動きを止める。
だが、すぐに頭を振り払うと、膝の上に置いていた文庫本に手を伸ばした。
「……別に」
「ドタチン硬派―! ツンデレ?」
「あのな」
「あ、ゆまっちと渡草っち帰ってきたよー」
「ただいまっすー」
「おかえりー。私の分は?」
「はい、どうぞ。門田さんはコーヒーで良かったすよね?」
「おう」
はい、と差し出された缶コーヒーを受け取り、門田はそっと本の代わりに膝に置かれたマスコットを見る。
(……狩沢だぞ)
はにかんで照れるような、それでいてとても嬉しそうな狩沢の顔が、気の抜けたマスコットの顔に浮かんでくるようだった。
(妄想大暴走中。需要:私)