00部屋その壱

□〜2011NLログ
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 テレビの前に三角座りをして土曜九時からのサスペンスを見るセルティの背中に、いつも新羅はえもいわれぬ幸福を感じる。

「セルティ」

 そして、それを行動で示す為に、彼女の隣に腰を下ろす。いつもどおり、マグカップにココアを淹れて。

「セルティって、サスペンスも好きだよね」
『面白いじゃないか。ただのサスペンスじゃないんだぞ? 温泉と、それから美味しい物も出るじゃないか』
「そうだね」

 実のところ、新羅はそれほどサスペンスが好きなわけではない。だが、セルティが見ているのを一緒に見ているうちに、色々なテレビ番組を見るようになった。セルティが好きな番組は、新羅の好きな番組でもある。
 ココアをサイドのテーブルに置いて、彼はにこりと微笑んだ。

「まあ、僕の個人的な話をさせてもらったら、サスペンスを見てるセルティを見てるのが好きなんだけどね」
『なっ……!』
「あ、温泉宿の女将さんだって。セルティ、今度和服着てみようよ。温泉宿の若女将セルティ。うーん、想像しただけでも……」

 ふふふ、と思わず笑みをこぼした彼の口にぐるぐると黒い何かが巻き付いて、強制的に彼を黙らせる。けれど、それが照れ隠しに過ぎないことを知っている新羅は、そっとセルティの肩に体をもたれさせた。

「冗談冗談。もちろん女将も捨てがたいけど、今のセルティといれるだけで十分幸せだよ」

 そっと呟くと、黒い布が解けて液晶の画面に文字が表情される。

『……そうだな』
「こんな風に、なんでもない日常をセルティの隣で過ごすことができる。私はそれだけで幸せだよ。セルティがいればたとえ地獄の中でも幸せだけど、でも、やっぱりこうして普通の生活を送るのが一番幸せなんだ」
『それは』

 サスペンスをじっと見ていたヘルメットに、不意に新羅の顔が映る。

『私も、同じだ』
「セルティ……」

 恋人の真剣な言葉に、思わず目頭が熱くなるのを感じる新羅。だが、その文字を即座に消したセルティは、素早い指の動きでそこに言葉を付け足した。

『新羅の場合、サスペンスの中だとすぐに殺されそうだからな』
「あはは、セルティは手厳しいなあ」
『その場合の黒幕は、探偵役でもある臨也だな。間違いない』
「そうかな? 臨也は俺のことは殺さないと思うけど」
『静雄を殺し損ねて新羅を殺すんだ』
「何それ!? 僕はどれだけ可哀相な存在なのセルティ!?」

 あんまりな扱いに、思わず新羅は声を上げて抗議する。セルティは取り合わず、テレビへと向き直った。だが、手元の液晶画面には、新たな言葉が表示されている。

『……まったく、毎回毎回私がどれだけ心配していると思ってるんだ』

 それを目にし、一瞬動きを止める新羅。
 その言葉は、彼を感激させるには十分すぎるほどだった。

「せ、セルティ―――――!!!!!」

 感極まった新羅が白衣を翻しながらセルティに抱きつくが、彼女はそれを押し退けようとはしない。ただ、短く優しい抗議をしただけだった。

『新羅、画面が見えない』
「大丈夫だよ、録画してるから」

 そっと後ろから抱き締めるようにして腕を回しながら、「ねえ、セルティ」と彼は囁く。

「私は、君がいれば良いんだよ。刺激に満ちた毎日だって、何にも望んじゃいない」
『知ってる』
「愛してる」
『……知ってる』

 黒で覆われた首筋に顔をうずめ、新羅は目を閉じる。
 二人とも、もうテレビの画面なんて見てはいなかった。








(バカップル新セルが大好きです! セルティは可愛い!)
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