00部屋その壱

□Peach Rip
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 唇が荒れていたから、リップクリームを塗った。
 特に拘りはないのだけれど、前に孫二娘から貰ったものがあったから、ピーチのリップクリームにした。孫二娘は僕がお世話になっている下宿の大家さんだ。何だかんだ言いながらみんなの面倒を見てくれる。良い人だと思う。
 少し違和感のある唇を指で撫でて、笑う。甘い匂いだ。
 そうやって下宿の廊下を歩いていると、角の方から劉唐が歩いて来た。ハッとして唇から指を離す。

「……何してんだ?」
「、別に」

 見られていた。カッと顔が熱くなる。
 まったく、何処の少女だろう。

「今から用事あるか?」
「ううん、別に。今戻ったところだから暇だけど」
「……部屋、良いか?」
「良いよ」

 そんな僕の様子にも気付かず、劉唐は視線を逸らしながら言う。
 桃の匂いが引き寄せたかのようで、笑みがこぼれた。





 ドアに鍵を掛けたところで、劉唐の手が僕の頬に触れた。

「蔣敬」

 顎から耳を挟み込むように、武骨な指の感触がする。急かすような声。相変わらずだな、と思いながら目を瞑る。
 一瞬後、啄ばむように優しい唇の感触があった。
 少し触れてそれからすぐに離れていった唇は、訝しげな声を紡ぐ。

「……何か食べてたか?」
「何が」

 分かってはいるけれど、はぐらかす。指が唇にそっと触れた。

「甘い味がしたんだよ」

 すうとなぜるくすぐったい感覚に、息が漏れる。爪先に口付けてみれば、劉唐が大きく目を見開いた。

「……本当に、蔣敬だよな?」
「さっきの、リップクリームだよ」

 噛み合わせない会話。くすくすと笑い出しそうになる。

「ピーチだって。孫二娘から貰った」
「……女か」
「唇が荒れるのは仕方ないよ」

 視線で同意を求めれば、笑われる。それもそうだよな、という声とともに、唇が近付いた。赤い舌が、僕の唇に触れる。
 くすぐったい。それから、何だか変な気分だ。

「甘いな」
「そう?」
「ああ」

 舌が引っ込んで、それから、また唇が重なる。





 僕らの恋は、桃のようだと思った。
 甘くて、それから、一歩間違えたら熟してしまう。












(リクエストがあった蔣敬受けです。自己満足です)
(何処を探しても二巻がないから資料皆無……)

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