00部屋その壱

□コタツ事情
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「嬉しい、嬉しい話をしよう! 人間というのは本当に偉大な生き物なのだと俺は思った! 何しろ、自然という厳しい現実に立ち向かっていくために科学を発展させ、自分たちなりの対抗の仕方を考え出したのだから! 素晴らしいことだと思わないか? 自然に立ち向かったんだぞ? 俺はコタツを発明した人間の為にならベンツを五台破壊できる」
「確かに気持ち良いよな、コタツ」
「そしてこれは俺のコタツであり定員は一名で永遠に俺だ。出て行け赤毛」
「良いだろ、ちょっとくらい」

 冬が始まるか始まらないかというくらいのある日のこと。
 こたつでぬくぬくと温まる二人の男子高校生の姿があった。
 二人とも学校から帰ってきたところで、まだ制服のままである。ちなみに、本人の台詞にもあったとおりここはグラハムの家であり、クレアは彼に付いて来ただけの存在であった。
 元は家族全員で暮らしていたグラハムの家であるが、今はわけあって独り暮らし。コタツは当然彼のものなわけである。……今までは。

「出て行け赤毛! お前がいると温もりが吹き飛ぶ! 冷たい公園のベンチの上で友達のクマとともに冬眠していろ!」
「だって外寒いだろ? というわけで泊めてくれグラハム」
「断固拒否する。最初と最後の繋がりの意味を俺に教えろ」
「俺らの仲だし」
「百歩譲って泊めるがコタツには入るな」

 何故そんなにコタツを愛するのか、毛を逆立てる勢いでクリスを追い出そうとするグラハム。雪の中でも真っ青なジャージで外を駆け回る彼からしてみれば、意外なことであった。が、しかし何のことはない。グラハムは寒いのは苦手だ。
 ただ、テンションが高いときには温度を感じないというだけで。

「にしても、このコタツ本当ジャストな位置だな……。テレビそこだし。なんか上にミカン乗ってるし」
「だから出ろ」
「あ、手を伸ばしたらジャンプが。今週のか?」
「出て行け」
「甘い物は……流石に溶けるか」
「だ か ら 、今すぐ俺のコタツから出ろ!」

 一向に抗議を気にしないクリスに、ついにグラハムの堪忍袋の緒が切れた。
 いつもどおり手袋を嵌めた手でコタツの中から取り出したレンチを掴み、にたりと得意げに笑って見せる。

「今俺のレンチはコタツに温められ、正直触れたら火傷する熱さだ! これで殴られたくなかったら出て行け!」
「俺を殴れるとでも思ってるのか?」
「やってみるか? 赤毛」
「いや、やめておこう。今はコタツから出たくない」
「……別に俺は停戦したいわけではないが、お前と意見が一緒なのは腹が立つが、コタツから出たくない。よって今回ばかりは見逃してやる。感謝しろ! 俺に! そしてコタツとそれを発明した偉大なる存在に!」

 コタツの熱にいつも通りのおかしさが増したのか、ぐるんぐるんとレンチを振り回しながら叫ぶグラハム。
 しかしクレアは彼の言葉を全く聴かず、突然ごろりと横になった。

「じゃ、俺寝るな」

 真っ赤な頭を、グラハムの腿の上に乗せて。

「……! 邪魔だ退け!」

 瞬間、元々色の白い顔をコタツの熱にプラスして赤くして、グラハムはレンチを振り下ろす。それをごろごろ転がって器用に避け、最後には片手で受け止めると、クレアは爽やかに微笑んだ。

「枕がないだろ?」
「取りに行け」
「コタツから出たくない。そしてそこにグラハムがいた」
「許可した覚えはない」
「許可なんて必要ないだろ? 俺達恋人同士だし」
「認めた覚えはない! 壊すぞ!」
「そうしてほしいんだったら壊してやるぞ? でもここコタツだからなあ……」
「意味が違う! とりあえず退け!」
「無理だ」

 足をバタバタさせようとしてみたり、クレアの頭を押し退けようとしたりして、精一杯抵抗の意を示そうとするグラハム。
 しかし、やがてどうやっても意味がないとやっと悟ったのか、レンチを置いて自らも畳に頭を付けた。そして、不貞腐れたような顔でクレアと逆側に顔を向ける。

「寝る」
「おう。おやすみ、グラハム。膝枕してやろうか?」

 至極真面目な顔でクレアが提案するが、グラハムはもうそれを聴いてはいない。
 恐るべし速度で睡眠へと旅立った彼からは、既に小さな寝息が聞こえていた。

「……まったく」

 それに少し苦笑しながら、クレアはゆっくりと身を起こす。そして、眠っているグラハムの方へと身を乗り出すと、慈しむようにその長い前髪をかきあげた。

「愛してる」

 落とされた口付けと微笑みは、コタツよりも何よりも温かいものだった。











後書き。
リクエストのあった「甘いクレグラかクリグラ」でした。
あまりにも寒い今日この頃なので、コタツで温もるグラハムが書きたくて書きました。コタツ良いですねー……欲しいです。
クレア様ちょうゴーイングマイウェイ。
一応これでフリリク企画は全て消化しました! 皆さまご協力ありがとうございました!

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