00部屋その壱
□心縛願い
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頬に触れる手の平。ぶっきらぼうな声。ごつごつとした筋肉質な体。その全てをどうしようもないほどに愛おしく思う。
(ああ、)
躊躇いがちに伸ばされる腕。乱暴だけど優しい唇。
(熱い)
熱の塊のような男なのだ。
不器用だけど他人思いで、まっすぐで、表情に出やすくて、それでいて。
何処までも、私を思っていてくれる。
熱を孕んだ彼はまるでそう、
(私の、太陽)
触れられたところから熱が広がって、私の全身へと体温を与えてくれる。
彼が私を生かす。
彼が生きているからこそ、私はこうして在り続けることができる。たとえ本人にその自覚がなくとも、彼は荷物を持つ私の腕を支えてくれているのだ。
いつもそう思っているのだけれど、私はそれを口にしない。口にしたらきっと、彼は真っ赤になって視線を逸らしてしまうだろう。
だから、これは秘密だ。
私だけの秘密なのだ。
(眩しい貴方が死んでしまうのが怖い。私の元に縛り付けておきたいとすら思うことだって、秘密だ)
彼は熱く、まっすぐでなくてはならない。
不器用でまっすぐで、他人のために戦う男でなければ、それは彼ではないのだから。
(劉唐、)
だから私は黙って見送る。
戦いへと赴く彼の広くて逞しい背を引き留めたい、弱い両腕を抑えつけて。
その額に落とした口付けが願掛けのようなものだなんて、我ながら本当に、
(女々しい、)
そんな私を強くしてくれるのは、他でもない劉唐、彼なのです。
女々しい。
なんて女々しい宋江様。