00部屋その壱
□トリニティ過去ログ
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そういえばこのところ買い物に行っていなかったなと思い、ラグナからの連絡もないのでヨハン兄に「買い物に行きたい」とワガママを言ってみた。
少し渋ったけど、ヨハン兄はあっさりOKしてくれた。ミハエル兄も行きたいといってくれたからだと思う。
本当は、ヨハン兄にも来て欲しかった。
でも、ラグナからの連絡があるかもしれないからって、ヨハン兄はハロと残るって言った。
買い物に行く日は、どんな感じの服を買うか決めてから出かける。衝動買いしてしまうことも多いけど、ヨハン兄が渡してくれたお金で買うから、それには限りがある。それに、買う服と着ていく服もある程度は合わせておきたい。
今日買いに行くことにしたのは、ゴスパンとか、そういう系の服だった。
勿論、着ていく服もそれに合わせる。
私が着るのはポートネックの黒Tシャツと、それから赤いチェックと黒の膝上スカート。足元は勿論ボーダーハイソックス、それでからハイカットのスニーカー。赤と黒が中心だけど別にそれだけが好きなわけじゃなくて、今日はそうしてみただけ。ゴスパン以外のジーンズやキャミワンピ、それからミュールだってあるけど、どれを着るかは気分次第。
ミハエル兄も私に合わせてくれた。大きく髑髏の入った黒いフードつきのTシャツに、ダメージカスタムのジーンズ。足元はゴツいブーツで、首から下げた逆さ十字がらしいなって思った。色つきの伊達眼鏡はこの前一緒に買い物に行ったときに買った物だ。
「あーあ、本当はヨハン兄にも来て欲しかったなぁ」
「ほんっと、兄貴って真面目だよな。たまには息抜きしなきゃ駄目っつーのにさ」
「ねぇ、ヨハン兄の服も買って帰ろ。この前ヨハン兄に似合いそうなジャケ見つけたの」
「賛成」
そうして私達は街へと降りる。
誰も知らない。私達が、今世間を騒がせるガンダムのパイロットだなんて。
誰も知らない。私達が何者かなんて。
みんな結局、自分のことでいっぱいだもん。
まずはヨハン兄の為にジャケを買って、あとはそれに合いそうな伊達眼鏡も買う。そんなに高くないし、私が選んだんだからヨハン兄も怒らないはず。
それからは、片っ端から店を回った。目に付いた可愛いバッグを買って、同じ店でミハエル兄はシルバーリングを買った。若干今日の服とは方向が違ったけど、それでも気に入った紫に大きく銀でロゴの入ったTシャツを、ピンクのとどっちにするか悩んだ末に購入。可愛いケーキのデザインのネックレスは考えてやめた。自分を引き立ててくれる物じゃなきゃ嫌。
「ねぇミハエル兄、これとこれ、どっちのが良いと思う?」
「どっちにも似合ってると思うぜ」
「え〜、そう言われると選べないじゃん。お金あんまり残ってないのに!」
「んなこと言われても・・・・・・オイネ―ナ、あのネクタイ絶対兄貴に似合うって!」
「あ、本当だ。じゃ、やっぱりこれやーめた。あのネクタイ買お」
人と人の中を抜けて、自分が欲しいものへと。
欲望に忠実に行動するって素敵なこと。それがどんな欲望であっても、絶対そう。
行動しないでいるよりも、行動するほうが絶対に良い。
「ねぇミハエル兄」
「何だよ、ネーナ」
「私、可愛く生まれて本当良かったぁ。可愛くなかったらやってらんない」
笑いながら言うと、ミハエル兄も笑った。
それから、食事も忘れてまた買い物。欲しい色のグロスがあったからマニキュアとセットで買って、ミハエル兄が入りたいと言った店でどれが似合うか一緒に選んだげる。店員の男がナンパしてきたからミハエル兄が脅して、その分ミハエル兄のベルトは安くなった。
気付いたらお金はもうほとんどない。
でもまだいたい。ミハエル兄に言ってゲーセンへと直行、残りのお金で色々遊ぶ。
店の中に居た女の子達が驚いたみたいな目で私達を見てる。そりゃそうよ、だって目立つから。
今日はめいっぱい遊ぶ。
次に何時こうやって遊べるかなんて、誰にも分からない。
私達はもしかしたら明日からたくさん任務が入るかもしれないし、ラグナから呼び出しを食らうかもしれない。
だから、今だけでも。
今だけでも、楽しめる間は全てを楽しみたい。
もう帰ろうと思って道に出ると、溢れ返るカップル。
隣のミハエル兄に、そっと言った。
「アイツらは、知らないんだよね」
ミハエル兄は答えない。
「私達が戦って、戦って、自分達の知らないとこでそうやってる人間がいるってこと。知らないし、知ろうとしない。なーんにも知らない」
「だから俺達が思い知らせて、世界を変えてやるんだろ?」
「こんな世界、なくなっちゃって良いのに」
これは多分、嫉妬。
私には持つことの出来ない平和を持って、好きなときに好きなように買い物ができる彼女達への。
嫉妬と、それから、
羨望。
だから思い知らせてやるんだ。
私達の苦労を、苦しみを、全てを。
ネーナは世界を憎むと同時に何処かで羨ましく思ってると思うんだ。