00部屋その壱
□小さな嫉妬
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「雪ちゃん、か」
燐が小さく呟くと、「なに?」と前を歩く雪男が振り向いた。
「どうしたの、兄さん」
首を傾げる弟に、「なんでもない」と答えて、燐はもう一度心の中で繰り返す。
雪ちゃん。
そんな風に呼ばれる雪男を見るのは、燐にとって生まれて初めての経験だった。
「雪男、しえみと仲良いのか?」
歩きながら燐がそう尋ねると、雪男は振り向かないまま、「そこそこ、かな」と答えた。
「しえみさんは学校に通っていないから、同年代の人間と接するのが珍しいんだと思うよ」
「……雪男はしえみのことが好きなのか?」
思い付いた言葉を、そのまま口にする。すると、しえみは目を丸くして立ち止まって、それから、ふ、と微笑んだ。
「兄さんこそ、しえみさんのこと好きになっちゃったの?」
「バ、なんでだよ」
「だって、さっきからしえみさんのことばっかり」
鬼の首でも取ったかのような顔で、ふふふ、と雪男は笑う。燐は慌てて弁解した。
「んなわけないだろ! ただ、兄としてお前のことが気になっただけで……」
「僕に嫉妬した?」
「してないっつーの!」
そうだ、別に、燐はしえみのことが気になるわけではない。確かに可愛いなとは思うけど、恋愛感情では、ない。
この想いはどちらかと言うと、そうだ、
「……俺が嫉妬してんのは、しえみにだ」
雪男から故意に目を逸らして、燐はそう口にした。
「俺の知らねぇ祓魔師の雪男を知ってるしえみが、羨ましいだけだよ」
すると、今度は本当に雪男は驚き、立ち止まる。
二人の元に、落ちる沈黙。
それを破ったのは、雪男だった。
「……ごめんね、兄さん。祓魔師のこと、兄さんに隠してて」
「別に、そういう意味で言ったんじゃねぇよ」
ただ、泣き虫だった雪男が自分の元から旅立っていくのが、少し、寂しかっただけだ。
そうとは口にできず、「帰ろうぜ」と燐は笑った。
「今日の晩ご飯はハンバーグだからな!」
すると、雪男も「そうだね」と微笑んで、また、歩き出した。
今度は二人で並んで歩いて行く。
目指す先、寮まで。
唐突に頭の中に舞い降りてきたので奥村兄弟書いてみた!
燐雪でも雪燐でもないと言い張ってみる。