00部屋その壱
□会いたかった
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「ライル! なにぼーっとしてんだよ」
自分のものとそっくりそのまま変わらない兄さんの声に、俺は驚いて顔を上げた。
「……兄さん」
「ったく、どうかしたか?」
「いや……なんでもない」
そうだった。今日は十二年ぶりに兄さんとの食事を約束していたのだ。
どうにも現実感がないなと思いながら、目の前の食事を眺める。すると、兄さんが二人の間に置いてあったエールの瓶を手に取った。
「飲むだろ?」
「え……ああ」
兄さんの大きな掌が、ゆっくりと俺のグラスにエールを注いでいく。大きくて、指の長い、手。兄さんの職業にぴったりだなと思ったところで、兄さんの職業は何だったっけと首を傾げる。
そんな俺を見ていた兄さんは、悪戯っぽくにやりと笑って言った。
「そう言えば、ライル、お前彼女ができたんだろ? どんな子なんだよ」
その言葉に、驚く。兄さんにアニューのことを報告していただろうか。だが、すぐに誰かが告げ口したのだろうと納得した。
「アニューっていうんだ。美人で頭が良くて機械にも詳しくて料理ができて、優しくて落ち着いていて、『ライル』って俺のことを呼ぶ声が、すごく耳に心地良いんだ」
そう言えば、アニューとは何処で出逢ったんだろうか。思い出そうとするけど、頭の一部に靄がかかっているかのように思いだせない。
でも、そんなことは、どうでもいい。
エールを一口飲むと、兄さんはナイフに手を付けながら言った。
「刹那たちは元気か?」
「ああ。アレルヤに彼女ができたんだ」
「そうか。めでたいな」
「フェルトはまだ兄さんのことが好きみたいだったよ」
「悪いことしたなあ」
刹那、アレルヤ、フェルト。誰だっただろうか。思い出せない。でも、とても、大事な人なんだ。
「今日は会えてよかった」
そう言って、兄さんは静かに微笑んだ。
「ライル、お前に会えて、本当に良かったよ」
伸ばした兄さんの手が、俺の頬に、触れる。
「じゃあな、ライル」
そう言った兄さんの体が、急に、遠ざかる。俺は反射的に手を伸ばすが、兄さんには手が届かない。
「兄さん! 兄さん!」
叫んだところで目が覚めた。
上体を起こして、ここが何処なのか確認する。トレミー内の、自分の部屋だ。
そうだ。
ここはプトレマイオス。CBの戦闘母艦。
そして、俺は――ロックオン・ストラトス。
兄さんはもういない。四年前に死んだ。
アニューももういない。死んだ。
「兄さん、アニュー……」
呻きながら、俺は鏡を見る。
『じゃあな、ライル』
そう言って微笑む兄さんの顔が、見えた、気がした。
ライルとニール愛してる!