00その弐

□ランチはひなたで
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「何故俺たちは屋上で昼食を食べているのか、十字以内で説明しなさい」
「俺様とヘアピン最高」
「玲すごいねー、将来泥棒になれそう」

 秋晴れの空の下。
 本来立入禁止であるはずの屋上で昼食をとる男子高校生たちの姿があった。

「しかし、良い天気だな……。眩しい」
「ごよー、天むす一口やるからそのオムライス一口」
「あ、オレもー! 代わりにミカン一房あげるー!」
「はいはい。じゃ、正斗は弁当の蓋に入れとくよ」
「わーい! じゃ、これあげるー」
「ありがとう。……玲はどうする?」
「あーん」
「却下」
「いや、冗談だけど……他に方法なくね?」
「……」

 五葉と正斗は母親手作りの弁当を膝の上に広げ、玲はコンビニで買ってきたおにぎりを食べている。紫音だけは、「用事があるから先行っといてくれ」と行って、後から来ることになっていた。
 日光という単語が最も似合わない五葉が、大きく欠伸をする。

「眠いな」
「次の時間サボって寝よーぜ」
「さんせー! 寝たい!」
「でも次保健だって……あの保健室の悪魔が直々に来る」
「げっ」
「うっ」
「いないの分かったら保健室に連行されるよな……。というわけで、無理」

 太陽はぽかぽかと照っている。三人でなくても、授業をサボって屋上で昼寝したくなるような日だ。
 お重のような弁当から炊き込みご飯をむくむくと食べていた正斗は、口の周りに付いた米粒を気にせずに言った。

「にしても、しー遅いねー」
「そうだな。……屋上とは言ったのに」
「しーちゃんが遅れるとか、珍しいよな」
「本当。何で呼び出されたか、誰か聴いてる?」
「知らねー」
「知らないよー」
「……委員会でも倶楽部でもないと思うんだけど……」
「あ!」
「ん?」

 五葉の声を遮って、玲が叫ぶ。
 正斗と五葉がそちらを見ると、彼は屋上のフェンスから身を乗り出し、体育館裏を指差した。

「あそこ」
「……またベタな」

 体育館裏、ということは、生徒同士のお呼び出しである。
 ちなみに、ここの学校の体育館裏は本当に他から見えない。こうして体育館の屋上に上がっている人間がいでもしなければ、誰からも見えないだろう。
 そして、そんなところへのお呼び出しの理由は限られる。

「告白されてんじゃね、しーちゃん」

 そう言って楽しそうにしている玲は、この中で一番体育館裏お呼び出しの回数が多い人間だった。勿論そこには告白も含まれれば、因縁を付けて上級生に呼び出されたというのも含まれる。

「まあ、紫音は玲と違って喧嘩は売られないだろうし……」
「どういう意味だ成田五葉」
「言葉通りの意味だよ井浦玲」

 いつもどおりの遣り取りをする二人だったが、正斗が口を開くと、じっと黙って体育館裏に視線を落とした。

「あ、女の子来たよー」

 彼の言葉のとおり、端の方から女子生徒が歩いてくるのが見える。
 普通の少女である。少し長い髪をシュシュでくくり、スカート丈は膝より上。どちらかといえば派手、という分類だろうが、特別目立つタイプというわけでもない。彼女の後ろには数人の女子がいたが、今回告白する少女は彼女だろうな、と三人は思った。
 緊張した顔をした少女に気付いた紫音が、柔らかい表情で振り向く。
 何事か二人が挨拶しているのを見ながら、上の三人は声を潜めて喋り合った。

「……45点」
「あの女子のこと?」
「そ。スタイルとか顔とかはまあ良いとして、友達を告白現場に連れてくるっつーのが問題。紫音が振ったら、絶対明日から噂流れるぜー」
「そうなの?」
「女子の集団の力は怖いな……」

 何かしら身に覚えがあるのか、ブルッと身を震わせる五葉。気にせずに玲は続ける。

「ま、顔は微妙だけどな……。スタイルはまあまあじゃね? センスは割と良い。性格あんま良くなさそうだけど」
「あ、オレあの人知ってるかも」
「え?」
「えーっとね、確か手芸部の人。料理部と手芸部は仲良いんだよ」
「それで……」

 俯いていた少女が、顔を真っ赤にしながら上げる。その唇が少し動くと、紫音が困ったような顔をした。声が聞こえなくとも、何が起きたのかは一目瞭然である。
 二人の間に流れている、微妙な沈黙。

「告ったな」
「告ったね」

 三人も身を乗り出して、その展開をじっと見守る。
 しばらくして、とても困ったような、けれども少し嬉しそうな顔をしながら、紫音が口を開いた。

「あー、振った」
「振ったな。相手泣きそうな顔してる」
「しー、すごい申し訳なさそう……」
「まあ、好きじゃないから振るっていうのは、全然申し訳ないと思うことじゃないけどね。紫音は良い人だな」
「五葉とは違って、な」
「否定はしないよ。玲とも違って、とは付け足すけど」
「あ、女の子泣いてる」

 はっきりと振られたのだろう。顔を押さえた少女が、バッと後ろを向いて駆け出す。付いて来ていた友人たちも、彼女を追いかけるようにして去って行った。

「睨んでる睨んでる睨んでる」
「明日ヤバいな……身に覚えのない噂流されそう……」
「しかも紫音のじゃなくて、何故か俺とか玲とかの」

 ところか、女子たちが去って行ってからも、紫音はしばしの間そこに留まっていた。複雑そうな顔をしてため息をつくと、校舎の壁にもたれて地面を見る。

「さ、食事に戻ろうか」
「……うん」
「今のこと、絶対秘密な」
「分かってるよ。明日になって初めて知った振りしよう」

 口々に交わし、フェンスから離れる三人。
 だが、食事に戻ろうとした瞬間、ふと空を見上げた紫音と、三人の目が合った。

「………………」
「………………」
「………………」
「目、合ったな」
「ヤバくね?」

 見られていたことに気付いたのか、顔を赤くしたり青くしたりする紫音。その後、彼はこちらを見上げて、口パクで言った。

『……見たか?』
『……うん』

 気まずい雰囲気。
 紫音が屋上に訪れるまでの三分が、三人にはとても長く感じられた。








―後書き
 風香からリクエストのあった、ギャグ表林檎。
 折角風香へだから、紫音への告白話にしてみました。野次馬する他三人。
 一人が告白されると分かったら、他四人は絶対に野次馬しに行くと思います。……まあ、玲のことだけは、ややこしそうだから行きませんが。
 楽しんで書きました。

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