00部屋その壱
□甘楽ちゃんシリーズ
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「甘楽ぁぁあああああああ!!!!!!!!」
「やだシズちゃんったらこわーい!」
「止まれそして俺に一発殴られろ!」
「止まる馬鹿はいませんよーっと」
一組の男女が、池袋の街の中を走る。
池袋名物とも言われるこの二人だが、本人たちはそのようなことは気にしていない。ギャラリーの目など気にせず、一歩間違えれば死に繋がる鬼ごっこを続けるのみである。
「きゃあ、シズちゃんあんまり鬱陶しいとストーカーで訴えますよー!」
「ストーカーはテメェだろ! 俺の行くところ行くところに現れやがって……!」
「逆ですよ、絶対! 私が池袋に来るたびにシズちゃんが現れるんですよ!」
怒りを爆発させた形相で走る静雄の火に油を注ぎつつ、ケラケラと甘楽が笑う。右に曲がった彼女を追って、静雄も迷わず右に曲がった。
「あはは、シズちゃんのばーか」
子供のようなことを言いつつ、楽しげに振り返る甘楽。が、
「あっ」
狭い路地を駆けていたところ、スカートが電柱から突き出た釘に引っ掛かり、思わず足を止めた。
「や、やばっ」
焦る彼女と対照的、好機とばかりに静雄は彼女の首根っこを掴む。
「ひゃっ」
ヤバい。甘楽が小さく悲鳴を上げるのと、静雄が怒りに顔を微笑ませるのとがほぼ同時。
「甘楽あああああああああああ!!!!!!!」
獣の咆哮のような絶叫と同時に、甘楽の軽い体は宙を舞っていた。
「わわ、」
路地の端から端まで飛ばされた甘楽の体は、舌を噛まないようにと彼女が口を閉じてすぐ、真っ逆さまに地面へと墜落する。
そのまま、彼女の頭は地面に追突して真っ赤な血の花が咲く……と思われた、が。
「!?」
工事途中の隣の建物から伸びる鉄骨に足を引っかけた甘楽は、ぐるりとその回りを一回転した後に勢いよく飛び上がり、鉄骨の上に両足を乗せて立っていた。
「じゃーん! 甘楽ちゃん復活!」
まるでアイドルのようなポーズを決め、自慢気に微笑む甘楽。
「どうですかシズちゃん! 私は簡単にやられるような女じゃないんですよう!」
その姿に再び苛立ちを覚え、その場のゴミ箱を投げつけ――ようとした静雄は、次の瞬間、言葉をなくして甘楽から視線を逸らした。
「……お前、」
大きな手でサングラスを抑える静雄に、鉄骨の上の甘楽は可愛らしく首を傾げる。
「え、どうしたんですかシズちゃん?」
ほら、ここですよーなどと自己アピールする彼女だったが、あまりに静雄からの返事がないことを流石に不審に思ったのか、やや困ったような顔で静雄に訊いた。
「……シズちゃん?」
対する静雄は、ちらちらと甘楽に視線を遣った後、思い切ったように口を開く。
「お前……スカート……!」
「え?」
静雄の顔は、赤い。
その表情と言葉の意味とを交互に考えた甘楽は、やっとその意味を理解すると、にっこりと微笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ?」
そして、「ほら」とスカートの端を持ち上げてみせる。
「下にスパッツ履いてますから」
「……ハァ?」
「シズちゃんの夢壊しちゃってごめんなさーい。でも、私だってそこまで馬鹿じゃないですよ? 激しい運動することが分かってるのに下着見せながら街中を走るほど、甘楽ちゃんは女を捨てちゃいませんよ?」
だからちゃんと隠してるんですよーと言いつつ、ぽん、とスカートから手を離す甘楽。
「ていうかシズちゃんったら照れちゃってかわい……」
彼女が呟いた直後。
静雄が投げたゴミ箱が、今度こそ本当に甘楽に直撃した。
「ぎゃっ」
叫んだ甘楽の体は真っ逆さま――つまりべろんとスカートがめくれてスパッツが剥き出しの状態で、そのままゴミ置き場へと墜落する。
頭を強かにゴミ袋に打ち付けた甘楽は、漂う悪臭に端正な顔を顰めると、文句を言おうと薄い唇を開いた。
「ちょっとシズちゃん、匂い取れなかったらどうするんですかあ!?」
ああもう、帰ってシャワー浴びなきゃ! それから香水! とギャアギャア騒ぐ彼女に眉間の皺を増やしながら、静雄は動けずにいる甘楽へと近付いて行く。
「自分で何とかしろ」
「何とかって何ですか! ああもうシズちゃんなんて大っきらい!」
「俺もお前が嫌いだ」
「ふーん、嫌いだって言われて嫌いなんて、シズちゃんは小学校の男子と同レベルですね! 脳細胞新しくなってないんじゃないですか?」
「……うるせえ」
「今時の男子は、もうそんなこと言わないかもしれないですねー。スカートめくりだってしないみたいですし?」
やだあ、シズちゃんったら小学生以下ですか。小馬鹿にするように甘楽が言うと、真正面に立っていた静雄の手が伸び、
「……え、シズちゃん?」
彼女の体が、ひょいと持ち上げられた。
「ちょ、シズちゃん……? 本気、ですかあ?」
思わず裏返る声。彼女が驚くのも当然のことである。何しろ、彼女は今、宿敵であるはずの男に俵担ぎにされているのだから。
「黙ってろ」
「黙ってろって……じゃなくって、下ろしてくださいよ!」
「別に問題ないだろ、スパッツ履いてんだったら」
「え、ちょっとシズちゃんったら、それ気にしてるんですか!? 女子がスカートの下にスパッツ履いてるのがシズちゃんの夢本当に壊したんですか!?」
「うるせえ」
「え、ちょ、やだー! シズちゃんったら純情! ムッツリ! ってきゃー、落とさないでくださいよ! 頭が下は血が上っちゃいますから! ってかスカートめくれる!」
大嫌いな男の肩に担ぎあげられながら、まるで普通の女のように、頬を染めてきゃあきゃあと叫ぶ甘楽。
ギャラリーが見たら大騒ぎになるところだったが、幸か不幸かその場に観衆はおらず、従って、彼女のスカートの下を見てしまった男も静雄だけ――なのであった。
後書き。
この二人を中心にしたことがなかったので中心に。甘楽ちゃんや臨美ちゃんの話は明るくなるのは何故だろう……。
様々なところで「スパッツなんか履いてない」甘楽ちゃんや臨美ちゃんを見かけますが、彼女は静雄相手に恥を捨てれてもさすがに一般人相手に下着丸見えは気にする(……よね!)と思ってスパッツネタ。
ああもうなんかこういうネタでごめんなさい。NLじゃやらないけど捏造NLならできるよ!
とにかくもう甘楽ちゃん可愛過ぎて困ります^^ 小悪魔^^
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