萬小説

□空の天秤
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キラと握手を交わす青年と、それに喜びを隠さないカガリの姿を、デュオはモニターから眺めて居た。
あのバスターの青年もそこに加わる。
フリーダムとジャスティス。
ザフトも大層な物を作ったものだが、世界はボードゲームの様には進まないのだ。



「友達、増えたな。」
良かったなと、フリーダムの整備をするデュオが笑った。
皮肉では無いのだろうな、と思いながら、ソフト面のチェックをしていたキラは、コクピットから乗り出してそれに応える。
戻って来たオーブに、まだデュオの姿が在った事を、キラは素直に喜んでいた。
無事だったその姿にホッとした。
「デュオ…僕のしようとしている事は無謀な事だけれども、見て居てくれる?」
尋ねれば、彼が頷いてくれる事も。
AAと、フリーダム、ジャスティスと数機のガンダムで、連合とザフト両軍を相手にしようと言うのだ。
無謀で無くて何だろうかと、キラは可笑しくなってしまう。
世界を敵にまわすのと、同じ事なのだ。
自嘲してしまう。
けれどもデュオは何でも無い事の様に応じたのだ。
「だって、お前はもう、それしか選べ無いんだろう?」
そしてそんな馬鹿が一部隊を作れる程には集まっている。
ただのパワーゲームの様に、戦争にばかり明け暮れる人類等居ない方がいいと言ったのは彼だった。
今では彼の言葉の意味が良く解る。
「俺も今度は一緒に行くぜ。」
「デュオ。」
「嫌いじゃないんだ。そういうの。」
狭いコクピットの間口に二人は、顔を寄せて笑った。
「それにキラ。向こうにも、きっと、お前達を待ってる奴らがいるよ。」
予言めいたデュオの囁きは、キラにそれを信じさせる。
「こんな馬鹿をやろうってのは自分一人だなんて思う時には、同じ事を考えてる奴が5人は居るもんなんだぜ。」
悪戯な目で、さも面白そうにデュオがうそぶいた。
彼は不思議だと、心底思う。
キラより小さくて可愛らしいのに、老賢者の様な深淵を伺わせる。
「デュオ。」
君は一体何者なのかと、問おうとしたキラの言葉は、他者の声に遮られた。
呼ばれたデュオは、そちらを振り返ってしまう。
キラは、デュオの編み込まれた髪を目で追った。
「トロワ。久々。」
彼の背中越しに、デュオの視線を追えば、静かな佇まいの少年が、こちらを見上げていた。
顔を半分隠す様な長い前髪。
けれどそこから覗く瞳は穏和で、調った顔立ちをしている。
瞬間、彼がデュオの大切な人なのかと、キラは身構えた。
今はまだ、彼を自分から引き離さないで欲しいと、キラは願う。
何もかも見透かした様な瞳で、自分を肯定してくれる彼が、キラにはまだ必要なのだ。
「お使いか?トロワ。」
デュオの質問に、彼は頷いた。
「エリカに、カトルからの伝言だ。」
「そっか。解った。じゃあ俺からの伝言も、カトルに伝えてくれよ。」
引き受けようと頷いたトロワに、デュオは肩を揺する。
「エリカはお前に会いたがってるよ。たまには直接会ってやれってな。」
「了解した。」
「頼むなー。」
立ち去ろうとするトロワに、デュオは気安い仕草で手をふる。
ふと、トロワが振り返り、彼は彼でまた気安い笑みでデュオを見上げた。
「デュオ。俺からは一つ忠告しておこう。」
「あん?」
「今のお前と彼の姿を見たら、ヒイロが何をするか解ったものじゃない。あいつはお前が絡むと理性を無くす。」
「あー。はいはい。黙っといてな。こいつはお友達だから。」
大仰に肩を竦めておねだりする様なデュオに、トロワは片手で応じて今度こそ去っていく。
それを見送ったデュオは、くるりとキラを振り向いて、にんまりと唇を吊り上げた。「アストレイも持ってけってさ。」
「え?」
「カトルって知らない?ウィナー家の当主でモルゲンレ-テの出資者。ついでにエリカの片想いの相手。そいつからエリカに伝言で、わざわざトロワを寄越すなら、ウィナー家もお前に乗ったって事さ。」
お前も中々隅に置けないなと、デュオはキラを肘で小突いた。
「ふっふふん。俺用にカスタマイズしといて良かったー。」
「え?!デュオも戦闘に出るの?」
デュオの発言に驚いて、キラは彼を見つめる。
彼はメカニックだと思っていたのだから、当然だ。
「あったり前だろ?」
何驚いてんのお前と、デュオはキラを見返した。
「まあ、大分改良したっても元がアストレイだから、フリーダム程の機動力はないけど、ジン相手位なら遅れはとらないから、心配は要らねーよ。」
「デュオ…。」
あくまで明るいデュオの言葉に、けれどもキラは深刻に俯いてしまう。
そのしかめられた眉ねに指を付いて上向かせ、デュオはキラを挑戦的に見詰めた。
「お前は人の心配する程、余裕は無い筈だぜ。そして俺も、お前に心配される程落ちぶれちゃいねーんだよ。お前らの闘いを単に手伝ってやるって言ってるだけなんだから、素直に喜べっての。」
「死なないでね?」
「お前に言われると、ちょっと身につまされるな。」
縋る様なキラの瞳に、デュオは破顔した。
「大丈夫。俺は死んでも死なないから。」
「何それ…?」
冗談なのかと、キラは顔をしかめたが、デュオは何処吹く風だ。
「俺は元々スペースノイドだから、宇宙じゃ一味違うぜぇ。」
まるで久しぶりに故郷に帰るのを、喜ぶ様に腕を広げる。
その姿は彼の身体に反して大きく見えて、キラは何と無く、彼の強気な発言を信じる気になった。
「よろしくねデュオ。AAを護ってね。」
微笑んだキラに、デュオは力強く頷いた。
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