萬小説

□水面に浮かぶ世界
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友達が欲しい。
あの時そう言ったのは、本心だった。
常に極限の中におかれたAAの中で、キラと友人達の関係は狂ってしまっていたから。
そして、大好きだったアスランは敵で。
何処にも居場所等無かったのだ。
だから。
AAにサイ達が残ってくれたのは、本当に嬉しかった。
デュオに甘えてしまったけれど、ちゃんと彼らは自分の友達で居てくれたのだと。
嬉しくて、嬉しくて。
そして、後悔した。



トールは何時も周りに気を配ってくれる、優しい人だった。
キラを一人にしない様に、頑張ってくれたのだ。
そんな人を、キラは失った。
何故あの時、嬉しいなんて思ってしまったのだろう。
来ないでと言えば良かったのだ。
優しさに甘えて、甘えて、甘え続けたから。
だから、自分はトールを失って。
他の皆から、彼の家族から、トールを失わせてしまった。
あの時。
キラの中身は怒りで充満していた。
本気でアスランを殺そうとした。
あの時まで。
本当の意味で解ってなんて居なかったのだ。
戦争と言うものを。
誰よりも圧倒的な力を使いこなせてしまっていたから。
人より恵まれた場所に置かれて、一人で全て背負い込んだ気になって。
悩んだり、甘えたり。
「それは仕方のない事ですよ。」
ラクスはそう言ってくれた。
「貴方は兵士として育てられたのでは無いのですから。」
それはそうなのだろうと思った。
それでも。
この後悔は、そんな言葉で消えたりしない。
彼女は、憐れみと期待を込めた瞳をしていた。
彼女には解ったのだと思う。
もう、キラは自分の命に脅える事が無いと言う事に。
ここに居るのは、一度死んだ人間なのだと。
ただこの戦争と言う物に、納得の行かない、その想いだけしか遺っていない、魂の抜け殻。
だからキラは、彼女が与えてくれた物にただ、感謝する。
キラにたった一つだけ残った意志を貫く為の力。

それ一つ持って、キラはまた、地球に帰った。
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