萬小説

□熱帯魚は思考する。 Gossip
1ページ/1ページ




泣きそうになる。
デュオから貰った愛の言葉。
パイロットスーツを脱がせ、開けた膚に、ヒイロは泣きそうになる。
一人遺されるのは怖いのだと泣いたデュオを、ヒイロはあの日、ごり押しで口説いた。
だから彼はきっと、自分が永遠に傍に居ると約束したから、ヒイロを許容してくれたのだと思っていた。
何時か彼が、自分を好きになってくれたら良いと。
とにかくずっと傍に居てくれたら、それで良いと、そんな風に考えて居たのだ。
けれどもデュオは、ヒイロを思って泣いていた。
ヒイロが思う以上に、彼はヒイロを愛してくれていた。
それが嬉しくて、同時に悲しい。
組み敷いたデュオの膚を撫で、そこに見知った傷がないから。
こんなに愛してくれてたのに、約束を守れ無かったかつてのデュオを思い、切なくなる。
「不思議に思うんだ。」
そんなヒイロの心情を悟ったらしいデュオが、呟いた。
悲しい時にも彼は、必ず笑う。
「あるはずの傷跡がないから。」
言いながら、デュオは身の上に乗り掛かって来るヒイロのパイロットスーツに指をかけた。
器用にそれを寛げて、ヒイロの肩に直に触ってくる。
「これは、俺が付けたやつ。初めて会ったとき。」
気軽な出会いでは無かったけれど。
「でも、お前だってその内、消えちまうよ。」
挑戦的な眼差しは、まるでヒイロを撃ち抜いたあの日と同じだった。
「デュオ。どうして俺はこんなにもお前を好きなんだろうか?」
余りに好き過ぎて思わず問えば、デュオは顔をしかめて、困った風に苦笑する。
「しらねーよ。まあ俺ってかなり魅力的なほうだから?仕方ないんじゃねー?」「そうか…。」
ヒイロは適当なデュオの答えに、真面目な顔で頷いて。
綺麗な首筋に顔を埋めた。
確かに。
仕方ないと思った。
何がどう転んだとしても、ヒイロは彼が好きで好きで仕方ないのだから。
「なあ…ヒイロ。」
まだおしゃべりしようとするデュオの声を聞きながら、ヒイロは首から胸へと舌を這わせる。
くすぐったいのか身をよじったデュオの胸の突起を含めば、小さな悲鳴が聞こえた。
可愛い。
小柄で滑らかな膚も。
歳経てさえも。
彼と言う存在は、ヒイロを捕らえて離さない。
「…俺さぁ。ファーザーに…憎まれてるかもって思う事も、あったんだけど。」
同じ人間でも、違う経験をして違う時間を生きたら、何も解らないと、デュオは自嘲した。
こんな時にも口を動かす彼を、ヒイロはらしいと思いながら、その告白に耳を傾ける。
「でも、うーちゃんが目茶苦茶オリジナルを好きだから。そうでも無いみたい…。」
ヒイロが視線を合わせると、デュオは意地悪く笑った。
「だからさ、お前今度こそちゃんとしろよな。俺って、お前じゃ無くても大丈夫みたいだから。」
「了解した。」
もうそれ以上言うなと、ヒイロはデュオの口に噛み付いて塞ぐ。


デュオは、ヒイロが居なくても幸せだった。
それはとてもヒイロには悲しい現実。
けれども彼は、ヒイロの為のデュオを残してくれた。
それが、今は昇華したかつての彼の、愛の証。
そして、ヒイロはやり直す。
傍らのデュオと一緒に。


コンパートメントの狭いベッドに、デュオの髪が拡がる。
半重力にゆらゆら揺れる。
デュオは、ヒイロに揺すられて乱れた思考の中で、目覚めた時の光景を思い出した。
何度も何度も、ああしてやり直すのだろう。
何人も何人も、生まれ無かったデュオを踏み台にして。
それはそれは気持ちの悪い光景だった。
でもヒイロ。
一緒に居てくれるんだろ?
デュオにむしゃぶりついてくるヒイロは、熱を孕んでも綺麗だった。
デュオは、目を閉じて天を仰ぐ。
ならば、次はもう少し、マシかも知れない。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ