萬小説

□熱帯魚は思考する。ACT3
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「動きが荒過ぎる!デュオ!」
「うるっせぇぇぇ!」


白雪姫と魔法使いなんて、カトルとトロワらしい人を喰ったネーミングだ。
初戦でも、ヒイロの動きにデュオはピッタリと合わせていた。
最初の内は。
次第にデュオは、何かに苛立った様に、先行するようになり、結局Gを損傷してヒイロに運ばれて戻ってきた。
そして、喧嘩だ。
「なんかもう、お前と面付き合わせてるだけで苛つく!もうやだ俺!我慢出来ない!」
プリベンターの作業員の見守る中、コクピットハッチから身を出した二人が怒鳴りあう。
「それがエージェントの言い草か!?貴様はやっぱり劣化コピーか?」
ヒイロに怒鳴られて、デュオが止まった。
見るだに大きな海色の瞳から涙が溢れて、半重力のドッグの中で水球を作り漂って行く。
「ふっ…ヒイロの馬鹿!お前なんか大っ嫌い!」
子供の喧嘩だ。
うえーんと泣きながら、デュオは飛び出して行く。
「ちぃ。」
苛立ちにヒイロに叩かれた、整備用の足場が歪む。
彼らはプリベンターの特殊任務エージェントとしと扱われている。
それが、帰還後直ぐの大喧嘩とは、整備クルーは口を開けて見ているしかない。
「ちょっとヒイロ。」
作業の手も止まり、静まり返ったドッグの中、小柄な整備クルーの一人が彼に近付いた。
毛を逆立てた獣に近寄る様な物だ。
他の整備クルー達は、彼の行動を勇気ある人間と言うより、無謀であると思った。
おっとりとした雰囲気の、プラチナの髪をした少年は、けれどもヒイロと対峙してもまるで怯まなかった。
怯んだのは、逆にヒイロだ。
「今のは君が悪いですよ。って、あれ?」
驚きに目を見張るヒイロに、彼は気付いて、言葉を切る。
「ああそうか。君は未だ知らなかったんですね。僕が君達と同じだと言う事を。」
カトル・ラバーバ・ウィナ-の二人目は、昔と変わらぬ笑顔でヒイロを見つめていた。



デュオに与えられたコンパートメントは、ヒイロの隣だった。
ヒイロは深呼吸してそのインターフォンを鳴らす。
彼と二人きりで対峙しようとするのは、これが初めてだった。
「何の用だよ。」
デュオは未だ、ふて腐れていた。
ヒイロの良く知るデュオの、柔らかい頬が、悔しそうに歪んでいた。
「済まなかった。」
「何が?」
デュオの問いに、ヒイロは胸を穿たれた。
上手い言葉がでなかった。
そんなヒイロに、デュオはため息と共に俯いて、彼をコンパートメントに促した。
「良いよもう。お前はヒイロだもんな。俺だって解ってる。」
お前がオリジナルのデュオを求めるだろうなんて事。
デュオは、背中を向けたままにそう言った。
ヒイロの目の前で、記憶のままの細い肩が、震えていた。
爪を切っていたデュオの細い背中。
俺は、お前との約束を守れ無かったんだな。デュオ。
胸の中で、ファーザー・マクスウェルが微笑んでいた。
「でも、俺…解ってるけど、だったら俺は何なんだって、思ったって仕方ないだろ?」
目の前のデュオはきっとまた泣いている。
デュオ・マクスウェルを一人きりにはしないとヒイロは約束したのだ。
どんなに離れてしまっても、約束した相手はオリジナルのデュオだ。
そして、ヒイロの為に生み出されたデュオを、彼は一人ぼっちにして仕舞った。
約束を破ってしまったから。
時はヒイロを待ってはくれず、けれどもデュオの心は、ヒイロに残されていた。
涙に震えるデュオの背中に、ヒイロは縋る様に手をのばした。
抱きしめた感触すら変わらない。
此処に居るのが、ヒイロのデュオだった。
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