萬小説

□熱帯魚は思考する。ACT3
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現段階では、ヒイロをきちんとした記憶を保存したままで、再生するのは難しい。
その結論に、デュオは崩れ落ちた。
支えたのは、ウーフェイだった。
ぐちゃぐちゃに泣いて、オーロラ姫に取り縋って喚いた。
それをウーフェイは見守っていた。
デュオは常に一線引いた少年で、ヒイロの事も流されただけの様に思えていたが。
というより、流されて仕舞えとウーフェイは思っていたのだが。
中々どうして、デュオにとってヒイロは大切な存在なのだと、ウーフェイは認識した。
「ウーフェイ、こんなところでどうしたの?」
デュオを待っている間に、通路の壁にもたれて眠っていた。
泣き腫らしたデュオは、幾分ふっ切った様に見えた。
「俺が、手伝ってやるぞ。」
あいつを叩き起こすのだろうと、尋ねたウーフェイに、デュオは苦く笑った。
「ありがと。」


約束したのだ。
デュオを置いて逝かないと。
その約束を守れるかどうか、ヒイロはひいき目にみても首のかわ一枚でしかない。

幸いウーフェイもカトルもトロワも、皆が力を貸してくれた。
そして、ウーフェイは。
寂しいデュオの傍に、ずっと居てくれたのだ。
一人きりで生きて行くのだと、デュオはずっと信じてやって来たのに、一度ヒイロに破られた心の隙間は、もう元には戻らなかった。
デュオがヒイロの復活に合わせる為に、Jr.を仕込んで居る事を知ったウーフェイは、デュオを執務室に呼び出して尋ねた。
「ヒイロ・ユイは、どんなに歳を経てもお前を愛するぞ。そんな用意をしてどうする?」
「でも俺、俺がそんなの堪えられないよ。」
もう、ヒイロより背が伸びたとデュオは笑った。
ヒイロが眠って、3年が経った頃の事だ。
ウーフェイは慰めたくて、デュオに口づけた。
あまり優しい口づけでは無かったかも知れないが、デュオは何も言わなかった。
ソファに押し倒しても、デュオは抵抗しなかった。
「ならば、お前は、俺と共に歩めば良い。」
デュオは、困った様に笑うだけだった。
実際、本当に困ったのだろうと、後にウーフェイは思う。
デュオには経験も無かったのだ。
それだけ、ヒイロと恋人同士として、過ごした時間は短い。
痛いイタいとデュオが泣いても、ウーフェイは彼を放す事など出来なかった。
彼は、永遠に繋がって行くデュオやヒイロとは違う。
何処か達観し過ぎたところのある彼らの様に、悠長では居られない。
一人の人間なのだ。
「ヒイロに、新しいお前を残すなら、今此処に居るお前は、俺の物だ。」
いつだってウーフェイは上から目線の命令形だった。
デュオは、彼の首に縋って頷いた。
ヒイロの事は好きなままだ。
けれども、もうそこに執着するのが辛いのだ。
何時になるかわからない。もう今のデュオが、目覚めたヒイロに会うのは難しいかも知れぬとまで考えている。この命は、ウーフェイの物だ。
ウーフェイと共に暮らし、老いて死ぬ。
ヒイロの為に残すデュオの記憶は、あの日までしかバックアップしていない。
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