萬小説

□熱帯魚は思考する。ACT2-2
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「うーちゃん。おれぇ。プリベンタ-やめよかな…。」
昼休みに押しかけて来たデュオが、いじけた様に呟いた。
「甘ったれるな。」
管理職のウーフェイの執務室は個室で、応接用のソファまで誂えてある。
そこにもたれたデュオを、ウーフェイはねめつける。
「なんでも貴様は逃げて済ませる。単なる破壊工作員である時ならそれで済むだろうが、今はお前も組織の中の一員だ。簡単に逃げるな。」
この容赦のなさが、彼の男っぷりの良さで、そう言われるであろう事は、デュオだってわかっていた。
「だって俺…他にどうして良いかわかんねぇし。」
「解らない事から逃げるな。向き合え。」
「どうして、もっと優しく聞いてくれないのかな、お前は。」
「聞くだけ無駄だ。カトルのところへでも行け。」
素気ないウーフェイの態度に、デュオは彼に立ち向かう事も諦めた。
脱力する。
「おれさぁ。好きとか嫌いとかわかんねぇんだわ。実は。」
「人と真面目に向き合わないからだ。」
勝手にしゃべる事にしたデュオに、ウーフェイは何だかんだで付き合ってくれる。
「だって人間皆死ぬじゃん?お前やヒイロなんか、得に危なっかしいじゃん?」
「そういう時代は終わった。」
「でも…。」
「俺は、そうそう死ぬつもりはない。あいつもそんなつもりで生きてはいない。お前に決め付けられるのは迷惑だ。」
「でも…。」
「お前は、好きになった人間に遺される自分が嫌なだけだ。だから、勝手に逃げて感情を逸らす。不誠実極まりないな。」
「ウーフェイ。」
そんなお前に惚れてる自分が愚か過ぎる、とウーフェイは思うが、それは溜息でごまかした。
そして彼の秘密を知っている事も、ウーフェイは敢えて伝えない。
「たとえ、どんな理由があろうと、人にまともに向き合えないのならば、それは正義ではない。」
断言したウーフェイに、デュオは苦笑する。
「お前らしいお言葉ありがと。なんかちょっとすっきりした。」
よいせと声をかけて、デュオは埋もれていたソファから身を起こす。
「カフェ行こうぜ。ウーフェイ。腹減った。」
すっかり普段のデュオのノリだ。
その提案に乗ってやりながらも、それではいかんのだとウーフェイは思っている。
皆まで聞く気もおきないのだが、十中八九ヒイロとの間で何かあったのだろうとウーフェイは察していた。
彼ら二人は、似合いの二人だと思っているのだが。
そんな事にまで彼が首を突っ込んでやる謂れはない。
自分達の事は、さっさと自分達で方を付けたら良いのだ。
デュオがきちんとヒイロに向き合えば、それはそんなに難しい事ではないと、彼なぞは思うが。
岡目八目で、こう言った事は、本人達には解り難いのだろうとも思う。
先を行く三編みの揺れる様に、ウーフェイはまた、溜息をついた。
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