萬小説

□天体ばらんす
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にわか雨。
落ちる埃と、湿った草の匂い。
屋内からでも、それが感じられた。
カップの中の珈琲は、未だ半分ほど残って冷えかけている。
ふと、何かが彼の琴線にふれて、読みかけの本から視線を上げた。
空気が揺れた様な気がした。
眼差しの先。
窓枠の向こうを過ぎった長い三編みが、今正にこの店内に入ろうとしている。
傘を持ち合わせて居なかったのだろう。
ヒイロの視界の中で、濡れた肩を払いながら、小柄な人影が扉に付いたベルを鳴らした。
ヒイロは、彼を見ていた。
彼はすぐに視線に気付いて、やはり。
目を見張った。
大きな瞳が良くこぼれ落ちないものだと、ヒイロは思う。
ヒイロの瞳は宇宙の色。
デュオの瞳は海の色。
そううそぶいたカトルの声が脳裏に閃いた。
長い三編みの少年。
ヒイロが見つめる先で、店員に席を促されるのを断ったデュオが、こちらに向かってやってくる。
「ようヒイロ。久しぶり。」
旧知の友と待ち合わせでもしていたかのように。
「元気にしてたか?」
そして勝手にヒイロの向かいを陣取って、アイスコーヒーを注文している。
「生きていたのか。」
「あ。死んだと思ってた?」
ヒイロが漏らした言葉に、デュオは気軽な口調で応じた。
「泣いちゃったりした?」本当に軽い。
いかにも可笑しそうに。
いくらかすっきりした頬は、やはり明け透けな笑顔を作るのだ。


3年前、ヒイロはウーフェイと共に、テロ組織壊滅の任務に乗り出した。
機能を拡充されたプリペンダ-の、組織戦としては始めての任務だった。
而して、個人戦力としては百人力の二人は、組織戦にはほとほと向いておらず。
そんな彼らと編纂されたばかりの隊員達の連携を確立するには、時間が足りて居なかった。
それを補う為にレディ・アンの取った苦肉の策。
それは、デュオとトロワへの助力の要請だった。
ヒイロとウーフェイを良く知り、彼らの思考についていける二人に、他の隊員達との間を取り持たせ、作戦行動をスムーズにさせる。
それが彼らに請われた役割だった。
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